scene75  Searching information in Fairy (2)

『真魔石についてじゃないけど、一つ情報あるけど、訊く?』
 じっとホーリー邸を見つめていたメイリは、突然のその言葉に我に返る。
「本当? 何でもいいよ、教えて」
『うん。色んなところで女神伝説は語り継がれていると思うけど、知ってる?』
 メイリとカーシックは何度も首を縦に振った。
『リシアの親友が医師団を連れてきたって言う事実があるんだけど、その親友が誰かを知っているよ』
「教えて、アリエット」
 アリエットは頷くと、その内容をメイリとカーシックに話した。

 綺麗な緑に囲まれて、その中を小川が通っている。そこでは水の精ネイフィオと一緒に、エミとトオルが居た。二人はネイフィオに誘われるがままに水遊びをしていた。トオルは何度もこけたせいか、服は既にびしょ濡れだった。
「ネイフィオちゃん。真魔石について何か知らない?」
 遊びの隙を突いて、エミはネイフィオに尋ねた。
『うーんとね。なんか真魔石と同じ属性の精霊は、その真魔石がどの世界にあるか分かるんだって』
「え!?」
 ネイフィオの口から出て来た言葉は、今まさに欲している情報だった。
「じゃあネイフィオちゃんは、水属性の真魔石がどこにあるか分かるの?」
 そう尋ねると、ネイフィオは表情を曇らせる。
『わかんない。一五〇歳を過ぎないと感じ取れないみたいなの。あたしまだ九六歳だから……』
 ネイフィオは苦笑する。彼女は九六歳らしい。人間から見ればかなりの年配だ。しかし彼女の見た目はかなり幼い。
「ごめんね、変なこと聞いちゃって。さ、遊ぼうか」
『うん』
 再び川へとエミが誘うと、ネイフィオの顔には笑顔が戻った。そして側から雄叫びが聞こえた。
「おっしゃー! 魚獲ったぞ!」
 トオルは右手に魚を握り天高く拳を掲げている。どうやら本来の目的を忘れて、魚を捕まえるのに必死だったらしい。
 そして三人は思い切り楽しんだ。ネイフィオは尚のことそうみたいだ。なるほど精霊たちにはネイフィオに近い見た目の者は居ない。村の子供も三十人に満たなく、昼は学校に通い、放課後は友達同士で遊ぶ。普段から遊び相手が少ないのだ。
 しかしネイフィオはこれで、日頃の寂しさを発散することが出来ただろう。

 エミとトオルがテネシー宅に帰って来たのは、夕日が空を赤く染める頃だった。普段から遊んでいないネイフィオの相手をするのはしんどく、やはりどこの子供と同じように底知れぬ体力を持ち合わせており、帰る頃はエミもトオルも疲労しきっていた。
「遅ーい。どこで遊んできたの? こっちはしっかり新情報手に入れてきたって言うのに」
「悪い。もうしんどい。先休ませて」
「ごめん、メイリさん。私もしんどい」
 そう言うと二人は早々と借りている部屋へと戻り、ベッドになだれ込んだ。

 翌日、昼になっても起きてこないトオルを放っておき、エミ、メイリ、カーシックの三人で、今までの情報を総合することにした。
「まずは真魔石の所在の把握について。これについて分かっているのは、BE社に没収されたと思われる光属性の真魔石だけね」
 エミは紙に図を書きながら情報をまとめていく。
「マークルさんの占い。これはもう古い情報と言っていいかもしれない」
 確かにマークルの所で占ってもらったのは、もう十日近く前になる。占いは随時結果が変わってくるものであるから、信頼度が高い情報とは言えなくなっている。それでも今はそれ以外に有力な情報はない。
「私は昨日はアリエットに会って、情報を手に入れたんだけど――」
 メイリがそう言うと、エミは首を傾げてアリエットとは誰か尋ねる。そこで、ジナーヴァとアリエットとセリオスには、エミとトオルは会ってないことにメイリは気が付いた。
「アリエットは氷の精霊よ。――それで、真魔石情報は同じ属性の精霊に訊いたほうがいいらしいの。だからネイフィオちゃんか――」
「ネイフィオちゃんなら、私たちが昨日会ったわ」
 エミはメイリの言葉を遮って、昨日の出来事を話し始める。
「それでネイフィオちゃんから手に入れた情報。――一五〇歳以上の精霊だったら、同じ属性の真魔石の存在する世界が分かるらしいの」
 メイリとカーシックが驚く声を上げるのと同時に、部屋にトオルが入ってきた。三人が自分をほったらかして会議をしていたことを知ると、あからさまにふてくされる態度を取った。だがそのままその輪の中に座り込んだ。おはようというエミの挨拶にも、ふざけて適当な返事しか返さなかった。
「で、炎の精と地の精なら一五〇歳を超えているって聴いたわ。――だから炎の精に――」
「そのことなんだけど――」
 エミの言葉の途中に口を挟んで、メイリは一言謝る。エミは先程メイリの言葉を遮ったので、構わないという態度を示す。
「――炎属性の真魔石の場所は、訊かなくてもいい」
 メイリのゆったりとした口調から出たその言葉に、一同はきょとんとした。真魔石の捜索をするのに、場所の目安がなくては意味がない。それとも地属性の真魔石の捜索をするのだろうか。
「ど、どういうことなんですか?」
 カーシックはいつもよりも緊張した風で尋ねる。
「炎属性の真魔石は、今、ファイヤーが持っている」
 突然メイリの口から飛び出た言葉に、トオルらは驚きを通り越して唖然とした。しかしエミはすぐに冷静さを取り戻し、尋ねた。
「何でそういうことになってるんですか? ファイヤーはもう亡くなった、炎属性の真魔石もその時にBE社に押収されたはずですよ?」
 その最もな意見を聞いて、トオルも自我を取り戻す。そしてその質問に賛同する。メイリは姿勢を正して俯く。
「私も最初は信じられなかった。けれど、あいつが目の前に現れたの。ちゃんと、霊体じゃなくて実態で。ファイヤー自身が憑依したって言ってた」
 その台詞を喋る間のメイリの顔はとても真剣で、その時のことを思い出したのか、目には恐怖が映っていた。張り詰める空気を誘い出したその彼女の仕草に、他の三人はそれを真実だとして認めるしかなかった。
 暫くの間沈黙が続いた後、パンと手を打ってトオルがその静寂を壊す。そしてメイリたちがどのような情報を集めたかを訊く。
「それはもうさっき説明したわ。エミちゃんに訊いて」
 メイリが呆れながら言う。
「あ、メイリさん、その、アリエットさんから聴いたことは……?」
 一つ何かを思い出したカーシックは、恐る恐るとメイリに示唆する。すると彼女はああと目を見開くと、忘れていたという表情でそれを口に出す。
「その氷の精からもう一つ――文献に書いてあった、医師たちを連れてきたリシアの親友のことが分かったんだけど」
「マジで? それ凄いじゃん」
 メイリは一回だけ頷くと、少しだけ間を置いた。
「なんだよ、その情報ってのは何だ?」
 メイリはそのトオルの言い草には少し腹が立ったが、あえて何も言わなかった。これは別にもったいぶっているわけではなく、ただ意味もなく一呼吸置いただけだった。
「えーと、とりあえず私はその人に連絡を取って、話を聴いてみたらどうかなって思うんだけど……」
 その提案にエミはすぐに賛同し、トオルにも全く異論を唱える様子はなかった。カーシックにはこのことは話しており、終始頷いているだけだった。
「ところでその人はどこに住んでいるんですか? 名前とかは?」
 エミの当然の問いに、メイリは答えた。

<<<   >>>