scene63  潜入 グラウンドアーサー -中編-

 破壊の音と共に木で出来たドアは粉砕し、向こう側に立っていた組員はドアの破片と一緒に飛ばされた。するとその場に居た組員は、一斉に音に反応し、そちらのほうへ向く。そのフロアは小奇麗な一階とは違い、汚れた天井や壁などが、内装も無く骨組みがむき出しになっており、熱気が篭っていた。この階の半分ほどが開けた空間になっており、いたるところに段ボール箱などが積み上げられ、一見して倉庫と分かる場所だった。
「よ、予想よりたくさん居るなぁ……」
 思わずトオルが呟く。完全に想定外の人数だった。ざっと見ても一〇〇人は居る。
「何しにきやがったぁ!」
 誰かがそう叫んだ途端、その全員がトオルらに向かって襲い掛かってくる。いきなりドアを蹴破ったのだから、敵だと認識するのは当然だろうし、確かに敵でもある。その人数に引き返そうと思ったが、階下からも組員がやってくる物音がした。
「やるしかねぇな――!」
「ええ」
 トオルの言葉にメイリが相槌を打つと、メイリは階段のほうを向く。
「やってやるぜ!」
 トオルはサッカーボールを具現化し、思い切り蹴り飛ばす。それは一人の顔面に当たるとその男は吹き飛ばされ、同時に後ろに居た組員をも巻き込む形で、同時に数人倒した。予定外ではありながらも、トオルは倒せると確信を得た。
 メイリは階段を数段下りたところで組員と遭遇した。
「お前か、仲間を倒したのは」
 メイリは何も言わずに微笑む。その表情は挑戦的で、組員の怒りを買った。
「ふざけんな!」
 飛んできた拳をひらりと跳んでかわすと、そのまま膝蹴りをその組員に喰らわす。その男は階段を転げ落ちて失神する。
(皮肉ね、ライトアタッカーよりも跳び蹴りのほうが効くなんて)
 ライトアタッカーとは、メイリのトンファの名前であり、左右で名称が違うが作りは同じだ。
 先陣の組員が一人やられたことにより、後を付いてきている数人が束になって襲い掛かってくる。メイリは飛び上がり空中で一回転すると、彼らより下の、踊り場に身を下ろす。その動きは鮮やかで、着地の瞬間の音も僅かだった。
「くそぉ」
 位置的に高い場所という有利に付いた組員らは、チャンスとばかりにメイリに飛びつく。
「やっぱ馬鹿よね、男って」
 メイリはそう吐くと、上空から襲ってくる組員を順に叩き落とす。彼らは空中では避けられず、自ら叩き落されに行くかのようにメイリの間合いに入っていった。そして最後の一人を叩き落すと、メイリは先程の続きの言葉を吐く。
「――ちょっとポジションが変わったからって、考えなしで攻めて来るんだから」

 こちらには数十人、こちらにも数十人。倒れた数は七〇を超えただろう。いとも容易く組員を倒すことの出来る理由を、トオルはやっと思いついた。ここは単なる倉庫。そんなところで働いている人間が、戦闘の訓練を積んでいるわけが無い。
(だったらこれでの攻撃は可哀想だな)
 トオルは魔法石ゲイヴン・シェイプで具現化していたサッカーボールを消す。
(道理で簡単に吹っ飛ぶわけだ。この弱さなら俺の拳で充分!)
 ボールを消したトオルに向かって、それが無ければ恐くないと残りの組員が突進してくる。先頭の一人を楽々避けると、後頭部に一撃手刀を加える。するとその男はよろめいて倒れる。次々に襲ってくる組員は、トオルの拳の前に呆気なく倒れていった。枚挙にいとまが無かった組員も、もう数えるしか残っていない。半ばやけになっている組員は、束になってトオルに向かって走り出す。
(来るか!?)
 するとその男らは構えているトオルの横を素通りする。
「――エミ!」
 彼の後ろにはエミが居る。トオルはすぐさま振り向いて叫ぶ。しかし彼女は身動き一つしないまま、襲ってくる集団を目視していた。そして拳が振りかぶられたとき、エミは言葉を発した。
「インパクトリフレクション」
 その言葉と同時に、今度は薄ピンクの透明な膜がドーム型にエミを覆う。勢いが止まらずその膜に向かって拳を振り下ろした組員は、それに当たった瞬間十数メートルも弾き飛ばされた。これで立っている組員は居なくなった。
「受けた衝撃を、そのまま相手に返す」
 再び呟いて正面を見据える。
「エミちゃん今の凄いね。えっと、カウンターってやつ?」
「はい、名前通りの技ですよ」
 メイリはひどく感心する。そしてトオルのほうを向く。
「トオルもなかなかやるじゃないの。いつか戦ったときよりも強くなったんじゃない?」
「さあな、でも俺はいつもメイリには負ける気はしねぇぜ」
「何強がってんのよ。足掛けられて転んで、起き上がれなかったくせに」
「あ、あの後すぐに立ったんだ!」
 呆れるように言われ、赤面しながらもトオルは言い返す。
「さあ、行きましょう。早く真魔石を手に入れるために」
 エミの言葉に、二人はふざけあいを止め、深く頷く。そして三人はその場を走り出す。倉庫の奥にはまだ部屋があるようだった。
(あの中に、ブリックが居るのか?)
 倉庫は様々な荷物が山積みになっており、まるで迷路のようになっていた。たまに行き止まりに入り込み、時には同じ道に戻ってしまったりした。このようなことを幾度か繰り返し、思ったよりも奥の部屋の扉の前まで時間が掛かってしまった。途中何人か隠れていた組員と遭遇したが、皆機を伺っていたわけではなく、命が惜しくて隠れていたらしい。この者らには密仲介の事実を教えて逃がしてやった。
「じゃあ、入るぜ」
 トオルはゆっくりとドアノブに手を掛ける。鍵が掛かっているかどうかは想定していなかったが、幸い施錠していなかった。緊張と警戒で、ドアを開ける速度が遅くなる。ドアを完全に開けると、それからようやく中の様子を伺う。一歩踏み出して部屋の奥を確認する。
 そこには、カーシックから見せてもらった写真に写ってるのと、全く一緒の体躯、服装、顔をした男が居た。間違いなくその男は、グラウンドアーサーの社長ブリックだった。しかし、その場に居るのはブリックだけではなかった。
「あの男は……」
 メイリが誰にも聞こえないような声で呟く。するとまるでそれが聞こえたかのようなタイミングで、ブリックの横に居る男が振り返る。
「子供がこのようなところへ入ってきてはいけませんよ」
 その男はそう言った。白銀の長髪に、ブリックよりも高い身長。赤の軍服のような服の左胸には、紋章が付いていた。トオルとエミはその迫力に圧倒されそうになるだけだが、メイリはその男のことを知っていた。
「あの人は、――BE社、ボート・K・デイト統長……」
 この肩書きに、トオルとエミは驚愕する。
 ブリックとボートの存在感に支配され、今まで気付かなかったが、ブリックの背にはBE社の派遣員が銃を突きつけている。
「こういう現場は、君達は見ないほうがいい」
 ボートはゆっくりと、三人のほうへとゆっくり歩み寄ってくる。

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