scene49 求ム、真魔石情報
「おい、あれ見ろよ」
「え? ありゃま……」
トオルを先頭に歩く四人は、必ずこの世界の住人に振り向かれた。
「何か私達、注目の的じゃない?」
「確かに……」
それもそうだろう。第十九番界トーラーは世界平均身長が一番高く、二二〇センチメートルである。そこへ一番背の高いレイトでも一七七センチメートルしかない一行がやって来れば、注目しないわけが無い。ましてやワールドトラベラーがやってくる頻度も、三十八界中でも低いほうなので、余計に珍しい。
それにしてもどうして真魔石を探そうか。勿論この世界にやってきたからすぐに見つかる、と言うわけでもなく、もしかしたら占いが間違っていることだって有り得る。しかし占いは信じなければ始まらない。探索の基本として、まずは情報収集から行うしかない。
「皆ストップ。手分けして聞き込みを行おう」
「そうだな。そっちのほうが効率がいいぜ」
「どう分けるの?」
そうだな、とレイトは考え込む。すぐに決まったのはペアで二組に分かれること。どう分けるかも少し考え、レイトとエミ、メイリとトオルに別れることになった。これは、何かに遭ったときのために、実力を考察した上でのペアだ。
「じゃあ僕らはこのまま真っ直ぐの道を行くから。トオル達は左の道をよろしくね」
「オッケー」
ワープポイントの出口付近から続いている商店街は、ここで三叉路になっており、二人ずつ左右に歩いていった。
「にしても、本当に何もかも大きいわね」
「これだけ人が大きくなれるということは、惑星の引力が弱いのか、それとも大気圧が若干低いのか……」
エミはペアになったレイトを見る。
「ねね、あの人に訊いてみない? あのおばあさん、なんか物知りっぽそうじゃない?」
店舗が途切れて細道に入っていくところで、椅子を置き座っているおばあさんを、エミは指差して言う。団子状に白髪を結っており、見た目から齢八〇は超えてるように見えた。レイトは賛同し、彼女に話しかけに行く。
「すみません、ちょっといいですか?」
「なんじゃね?」
「おばあさん、真魔石というものをご存知ですか? 魔法石の一種なんですけど」
彼女は息を付きながら、考え込んだ。そして思い出して手を打つと、ゆっくりと話し始める。
「私は良く知らぬ。じゃがの、もしかしたらディユーシュさんなら知っとるかもしれんの」
「ディユーシュさん? その方のことと、居場所を詳しく教えてください――」
歩けば歩くほどそうだ。周りの人目が気になる。老若男女、皆が皆、自分たちを振り向いていく。どの人を見ても、身長は二メートルを超える者ばかり。トオルとメイリは、小人になったような気分で商店街を歩く。伏目がちに辺りを見回しながら、とりあえず前へ進む。誰に情報を尋ねるか二人で相談すべきなのだが、周囲の目が気になり、それすらまともに出来ない。
しばらく黙り込んで歩いていると、眼前に巨大な影が現れた。
「おい、何か持ってんだろ? 俺にくれよ」
現れた巨漢は更に大きく、二メートル四十センチはありそうだった。しっかりとした体に、強気な口調。間違いなく”たかり”だ。メイリは内心ではやや怖気ていながらも、表情は崩さず黙ってその男を見る。
(こういう奴は相手にしないほうが――)
「うぜぇ、邪魔、どけ」
(! な、何言ってんのー!)
「何だとガキ?」
「うざってぇ、凄ぇ邪魔、さっさとどけ」
この言葉に、男は頭に血を上らせた。トオルは、地球で言うならいわば不良だ。こういう出来事に反応しないわけがない。
「ちょっとトオル、あんた挑発してどーすんのよ!」
「え、何だよいきなり」
「何だよじゃないわよ。こんな大男に挑発かましてどーす――!」
二人は咄嗟に避ける。男の拳が飛んできたからだ。手も大きく、拳を握った状態でメイリの頭ほどもあろうか。巨躯に似合わぬ振りの速さで、二人を驚かせる。
「俺を舐めてるようだな。まあ俺も大人だ、持ち物全部置いていったら許してやるぜ」
状況と言い方が変わっただけで、最初に言い放った要求と、中身は変わらない。いささか周囲がざわついてくる。どの人も、気の毒そうな眼差しを向けるだけ。傍目には、観光客が地元の悪に絡まれている程度のことなのだろう。自らがこの状況に陥るとよく分かる。自分たちがただの傍観者となってるとき、それはどれほど無情なものか。こちらからすれば、一瞥し素通りしていくものよりも、野次馬となる者のほうが、恨めしく感じる。
メイリはそこに漂う異様な雰囲気に、どう対処することも出来なかった。だが隣を見れば、トオルは涼しい顔をしている。何か策があるのならば、早くそれを実行して欲しかった。
「力尽くで奪ってみろよ。それとも、俺に負けたくねぇか?」
「……何だと?」
メイリはますます焦りが出てくる。トオルには挑発しか出来ないのか、そう叫びたかったが、出来るわけがない。
「このガキが!」
大男は再び拳を振り回してくる。メイリは数歩下がり、とばっちりを受けないようにその場から少し離れる。しかしトオルは、その拳を直接受けてしまった。体は数メートル飛ばされて落ちる。メイリは思わず顔を覆う。
「粋がってんじゃねぇぞ」
「トオル!」
メイリは思わず叫んでいた。すると彼は、ゆっくりとその体を起こした。周りの人からはどよめきが起こっている。
「なんだ、速いだけのパンチじゃねぇか。そんな軽いんじゃダメージは与えられねぇぜ」
大男の顔が強張る。服に付いた砂を掃うと、トオルは男を睨みつける。
「見かけだけだな。本当のパンチってやつを見せてやろうじゃねぇか」
そういうと体勢を整え、攻撃の仕草を見せる。男もそれに対応できるように構える。するとトオルは構えを解き、喋りだす。
「悪ぃ。俺のパンチ見せられねぇや」
男は、はぁ? と、首を捻る。その時、肩に何かが乗った感覚があった。すぐさま振り向くと、メイリが肩の上で倒立をしている状態になっていた。男が何をする間も無く彼女の足は振り下ろされ、後頭部を強打した。強烈な一撃に男は瞬く間に地面に倒れこんだ。
「何あんただけ恰好付けてんのよ」
着地したメイリは、軽い口調でトオルに文句を言う。
「何だよ、別にいいじゃんか。倒せたんだし」
余りにもあっけらかんと喋る彼に、メイリは言い返す言葉もなかった。その刹那、周りに居た人々から喝采が沸き起こった。突然の出来事に、二人は唖然とするしかなかった。誰もが自分たちを褒め称える。
「良くやったぜ、あんたたち!」
「日頃の恨みが晴れたぜ!」
この歓声を聴くと、どうやら彼は日常的にこのようなことを行い、人々から嫌われていたようだ。ここで更に注目を浴び動きづらくなった二人だが、しかし情報収集が行い易くはなっただろう。
この状況下、二人の周りには媚を売る者は少なからず現れる。しかしトオルとメイリの強気な性格から、そのような輩は一蹴され、本当の親切を持っている者だけがまとわる。その者達に訊かず、誰に訊くのだろうか。
「皆さん、真魔石ってものについて、知っている人っていますか?」
二人を取り囲む人達からは、唸る声や、知らないという呟きしか聞こえなかった。しかし、トオルが寄りかかっている木の後ろから、その少年の声は聞こえた。
「ぼくは、そのことについて知っていますが……」
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