scene44  intention (1)

 第三一番界から帰り、トオル、レイト、エミの三人は一息つく。真昼間の都会は騒がしく、賑やかであった。長い間歩き続けていた三人は、新たにチェックインしたホテルの部屋に滑り込む。
「疲れたぁ、一体何時間歩いたんだよぉ」
 ベッドに座り天井を見上げるトオルに、レイトは笑って返す。エミは隣の部屋に居る。
「俺ちょっとエミのところ行って来るわ」
「うん」
 トオルはゆっくり立ち上がり、部屋を出て行った。それを見送って部屋に残ったレイトは、無造作に部屋の隅に置かれた椅子に腰掛ける。

「エミ、入っていいか?」
「いいよ」
 軽くノックしたトオルに、エミは返事をする。それを確認してドアを開ける。
「何か用?」
 ああ――と、トオルは勝手にベッドへ座る。エミは床に膝を付いて、荷物の整理をしていた。
「その魔法石って、どんな能力なんだ?」
「やっぱりそのことか。――秘密。その時が来たら助けてあげるから」
「秘密ってのはずるいじゃねーか。知ってるぜ、サイコロタワーとかで集中力を上げる特訓してたのは。魔法か何かだろ?」
 エミは白けた表情で見返す。
「そこまではユカさんが説明したんだから知ってるでしょ。どんな魔法か、は秘密ってことよ」
 トオルは薄っすらと冷や汗をかきながら、意気消沈する。当てるつもりで言ったのだが、見事に返されてしまった。しかし自分の当て方が間抜けだったのが、非常に情けなかった。
「そうそう、ユカさんがね、トオルに魔法石の名前を伝え忘れた、って私に言伝を頼んだのよ」
 そういえばトオルは、以前レイトに魔法石の名を教えてもらったときに、自分の魔法石の名を知らないことを思い出していた。
「んで? 何て名前?」
「えっとね、確か”ゲイヴン・シェイプ”だったと思うわ」
 ゲイヴン・シェイプ、まさに”形を与える”魔法石だ。これが適当な名だと言うか、最早これ以外に考えられなかった。トオルはその名を大変気に入り、ポケットから取り出した魔法石を、じっと眺めた。

 レイトは椅子に座り込み、膝に乗せ握った拳に、額を乗せる。その眼は、いつかの真剣な眼だった。
(さて、どうするか――)
 一点を見つめたまま、思考を巡らせる。
(メイリ――。彼女はなかなか一筋縄では行かない)
 彼の考えることは、エミと初対面した日から、メイリのことが多かった。
 ――彼女を僕達から遠ざけるのはなかなか難儀だな。幾度と襲撃してきたところから見ると、彼女の覚悟は確固としている。更に今まで正面から堂々と攻めてきている。考えもしない場面で現れても、必ず存在を僕に知らせる。これは余程自信が無ければ出来ないこと。そう、彼女は僕の正体を知っているし、そのことからもまた仕掛けてくることは間違いない。しかも次に来ると三度目。人間の心理から、次は隠していた能力も使ってくると予想できる。自分はまだあの速さに付いていけていない。ならば一体どうすればいいのか――。
(振り切るのはまず無理。だからと言って、殺す訳にもいかない。今まで多くの賞金稼ぎに出会ったけど、彼女だけは他の者と違う、公私の区別が出来て、私生活まで汚している様な印象は無い)
 考えに考えて、レイトは突拍子も無い結論に辿り着いた。トオル達がどう考えるかは分からないが、思いつく中で最も落ち着く形だ。まずこれを実行するには、トオルとエミの了承が無ければならないだろう。

「か、金で取引して、引き込む!?」
 トオルとエミは声を揃える。説明をするために、二人を呼んだ。
「悪くは無いと思うよ? お金目的で僕を捕らえに来てるんだから、お金を渡せばいい。それで奉仕だけじゃ割に合わないから、何らかのサポート役として取り込むんだ。幸いプライベートで彼女に会った時、卑怯な手を使いそうな風には見えなかったし」
「レイト、金で解決するのはいいが、何で引き込むんだ? 追っ払って、それで終わりじゃねーか」
「私は、そのメイリって人のこと良く知らないけど、トオル達を襲ったから、余り引き込みたくないわ」
 レイトは最もな意見を突きつけられて、確かにそうだ、と頷きながら、言葉を続ける。
「けれども、あの戦闘能力は比較的上位に位置するし、驚異的な脚力によって、速攻や、人の登れない岩肌を上がって、そこから遠くの情報を得ることも出来る。何より、個人的なことで申し訳ないけれども、賞金稼ぎ同士の繋がりというものがあって、そこからそれに関する情報が入手できるんだ」
 ここでトオルとエミは再び考え、トオルが意見をだした。
「情報戦線に使うなら問題ねーか。それなら俺は構わねーよ」
「ちょっと待ってよ、そんなに簡単に取り込んで大丈夫なの?」
「その程度なら問題ないんじゃねーの? 俺も普段のメイリと会ってるし、その時は普通の女って感じだったぜ」
 トオルが賛成意見を出して孤立したエミは、そこで渋々ながらも賛成した。
「二人とも、ありがとう。準備は全部するから、次に会ったときに交渉してみよう」

 そう、不意を突けばいい。それを頭の中で復唱しながら、メイリは作戦を整える。
 ――捕らえるのは容易ではない。ならば捕らえられる状況に追い込むしかない。あのレイトを捕らえられる状況とは、具体的に何か? 力任せに押さえつけることは、体格、性別から言ってもまず無理。ネット等で捕らえようとしても、前回戦ったときの刃で断ち切られるのは必至。防犯用の不審者捕獲ネットは刃で斬られることも無いであろうが、今は所持しておらず、企業向けに販売している所為か、入手方法も販売価格も自分では持て余した。
(そうだ、折角不意を突けるんだから、その際に戦闘不能にしておけば簡単に捕まえれられるかも――)
 彼女の思いついた作戦は、速攻。不意を突くと同時に、攻撃。すぐに戦闘不能にさせ、それこそロープなどで縛って、国家警備視察団、通称、警察に引き渡せばよい。犯罪における通報、検挙は、BE社が九五パーセントの支持を誇っているが、指名手配が出来るのは警察だけである。その為指名手配犯は、例えBE社に捕まったとしても、警察に引き渡すのが通例となっていた。同じく指名手配の懸賞金を支払うのも警察である。
(腕は駄目ね。殺るなら頭、動けなくするには腹と脚くらいね)
 そして彼女は決めたのであった。作戦の決行日は明日、レイトが見つからなければ毎日探し回ることを。
(ホテルに乗り込むのは、それまでに手間が掛かるわね。玄関から出てきたところを狙おうかしら)
 狙いどころも定め、あとは成り行き任せ。外に出てくるのが一人ならば好都合だが、トオルも付いて来たら、そこは適当な対処をする。最近襲撃したときに居た少女が、あの二人とどういう関係なのか分からないので、三人で出てくることも考慮した。
(確か、トオルだったわね。あの子がどう動くかで、作戦の結果も変わってくるかもしれない)
 兎に角その時になってみないと、何も分からない。未来を予測したいのであれば、第十番界クライシスに行けばよい。トオルらは疲れた体を休め、メイリは明日に備えた。
 外は漆黒の闇に包まれて、その内都会独特の喧騒は消えた。様々な色の星が空に輝き、限りなく黒に近い紺と、鮮やかな色の対比は、見るものを魅了する。穏やかな風が吹き、それは遠くの緑から、自然の香りを運んでくる。この夜の静けさは、今日一日をリセットする。

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