scene40  そしてその結果が

 外からは明るい日差しが差し込んでくる。テントの隙間から、丁度顔に陽光が当たる。レイトはそれで目が覚めた。トオルとエミは、まだ眠っている。暖かい気候のこの世界、薄布を一枚掛けただけであったが、寝るのにはそれが丁度良かった。
 テントの中を見回すと、マークルの姿が無いことに気付く。起き上がり、占い台と部屋とを仕切るカーテンをめくる。マークルはそこに座り、何かを占っている様子だった。
「起きたのか」
「はい、お早うございます。――何を占ってるのですか?」
「あんたはあっちの黒髪と違って礼儀がいいねぇ」
「トオル、ですか……?」
「ああ、トオルって言ってたね。昨夜訊いたけど忘れちまったい。――ああ、何を占ってるかって? これはあんたらのこれからさ」
 これから――。そうレイトは思った。ならば、自分の恨むべき相手も分かるかもしれない、とも思った。
「今あんたの分が出たところだよ。”そう遠くない未来、あんたは自ら孤独を選ぶときが来る”」
「僕が自ら、孤独を?」
「間違いないよ。わしの占いは、必ず当たる」
 レイトは最近やっと、孤独から開放された。トオルに会うことで。それが幸せなのに、また前の状態に戻ることは考えられない。
「残念ながらこの未来は変わらん。覚悟して待ってるしかない」
 テントの奥のほうで物音がする。エミが起きたのだ。そして、トオルを起こしている。
「こういうことは、皆の前では言わぬほうが良いと思ってな、一人の時に言ったんじゃよ」
 するとマークルは立ち上がる。
「どれ、飯でも作るかの」
 マークルはテントの中へ歩いていく。レイトは占い台の前から動かない。トオル達の会話で、テントの中が少し賑やかになった。

「マークルさん、泊めてくれてどうもありがとうございました」
 エミは笑顔を浮かべて、軽く頭を下げる。茶の長い髪が、一緒に垂れる。
「別に構いやしないよ」
 そうそう、と言って、マークルは言葉を続けた。
「占ってやったよ。エミ、あんたは今日、気を付けたほうがいい。落し物にね」
 マークルはトオルの方を向く。
「あんたは今日、新しい発見がある。それも、身近なものでな」
 トオルとエミは、表情を崩さずも、内心ではその言葉を刻んでいた。レイトははっと気付き、代金を取り出して、マークルに渡そうとする。しかしマークルは、それを拒否した。
「金はいいよ。わしはお前さんらを気に入ったからな。ただ、暇があれば顔を見せに来な」
「はい」

 マークルと別れて一時間。まだ街は見えてこない。
 元々その日の内に街へ戻るつもりであったが、二日掛かってしまった。今までの普段の生活の中では、決して遅延はしまいと決めていた。それは何においても無駄だからである。しかし今回、レイトは違う考えを持ち始めていた。たまには遅れるのも構わない、と。マークルに誘われたときは、以前の自分では誘いを断り、夜道を引き返していただろう。だが、トオル達の影響か、そこを踏みとどまった。
(僕も、大分変わったな……)
「あっ!」
 エミが突然声を上げ、残りの二人は彼女を見る。
 エミは鞄を前に抱え、中を探し回っていたようだった。少し涙目で言葉をこぼす。
「ブレスレットが……魔法石の付いたブレスレットが無い……」
「え!?」
 二人は驚く。何よりもまず、そのようなものを持っていたことが初耳だったが、今はそのようなことを考えている場合ではない。人工鉱石とはいえ、とても高価で貴重な代物。無くしたらただでは済まない。テントを出るときには、確実に鞄の中にあったことから、どこかで落としたのだろう。
「あれほどばあさんに、落し物に気を付けろ、って言われてたのによぉ」
「仕方ないじゃないの、落とした物は落とした物なんだから!」
「二人とも、言い争ってても仕方が無いよ。来た道を戻りながら探そう」
 そこでレイトは、目の端で影を捕らえた。瞳を向けると、馬に乗った二人組みが、遠くを走っている。すると急に止まり、下馬した。そして、何かを拾う仕草をした。
「トオル、エミちゃん、あの二人組みが拾った! 急ごう!」
 レイトの叫びと同時に、三人は走り出し、馬の二人組みは再び乗馬し、駆け始めた。二人が下馬した場所、あそこは間違いなく自分達が通ってきた道。拾ったのは間違いなく、エミの魔法石。
(エア・フォース(レイトの所持している魔法石の名)を使うか……)
 後方から追い風が吹いてきた。それが背を押し、三人の走る速さは上がる。一方、馬を引き連れた二人組みには、前から砂塵が風に乗ってくる。それが邪魔で、出発が遅れた。そして三人は追いついた。
「私の魔法石、返してよ」
 瞬間、吹いていた風が止んだ。そして、馬の二人組みは、こちらの姿を認めたようだ。
「何だ、持ち主が居たのか」
「そ、私のだから、返してください」
 先頭の馬に乗っている男は、一瞬黙る。
「嬢ちゃん、あんたがこれ持つには、まだちぃと早いんじゃないの? 代わりに俺が貰っといてやるよ」
「ふざけたこと言ってんじゃないわよ! 早く返しなさい」
「あらら、下品な言葉を吐くとは。行こうぜ、バオフォン」
 先頭の男は、後ろで馬に乗っているもう一人の男にそう言うと、馬を走らせた。走っている馬に近づくのが危険なことは、誰でも分かる。三人は止めることが出来ず、馬の後を追っていくしかなかった。

「エスト、その魔法石は高く売れそうか?」
「ああ。これがあれば半年は何にもせずに済みそうだぜ、バオフォン」
 馬に乗っている二人、エストとバオフォン。昨夜、マークルが注意していた、盗賊の輩である。二人は後ろを振り向く。遠くに三つの人影を確認できる。ここで、後ろの馬に乗っていた、テンガロンハットを被っていた男、バオフォンが提案する。
「エスト、考えがある、聴いてくれ。あいつらは魔法石を持っていたくらいだ、他にも何か、金目のものを持っているかもしれねぇ」
「それで?」
「それでな――」

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