scene31  beautiful sound

 ロープで腕と体を縛られ、あぐらをかいて座っている男。身動きが取れないこの状況下においても、どこか威圧感を放っている。捕らわれているのは一界の王、ロドリー・ミリオン。既に息切れも止まり、痛みも和らいでいる。
「では、まず一つ訊きます。何故、あのような装置を造らせたのですか?」
 レイトからは、ロドリーに対して質問が投げかけられた。装置とは、特殊音波発生装置である。
「……癒されるかなぁと思って」
「……」
 二人は言う言葉がない。
「もう一つ訊くぜ。捕らえた人たちはどうした?」
「牢に入れてあるよ。別に何もしてねぇ」
 トオルは息を吐く。民に危害が加えられてなかったことと、この期に及んでも挫けることのないロドリーに。
「まぁ、僕の立場から言うのもなんですが、今回は見逃します。しかし、条件があります。一つに、民への横暴を止めること。二つ目に、あらゆる税の引き下げ、廃止。これを守ることが出来るなら、その縄を解きます」
 ロドリーは、暫く考えるふうを見せ、頷く。トオルが、警戒しながら縄を解く。ロドリーは、自由になった体で立つ。ここでトオルは、思いついたようにロドリーに話す。
「そうだ、まだ訊きたいことがある」
 まだあんのかよ――と、ロドリーは疲労の色を見せる。
「真魔石の在り処。おまえ、知ってるか?」
「……俺様も詳しいことは良く知らねぇ。だが、まずここより大きな番号を付けている世界には、無いと言えるな」
「それは本当か!?」
「誰もこんなとこで嘘なんかつかねぇよ」
 トオル、レイトの顔は、明るくなった。初めて見つけた、真魔石の手がかり。この細い糸のような手がかりを、ようやくこれから探っていける。

 街はにわかにざわついていた。先程まで異常だった音が、突然いつかの懐かしいそれに戻った。既にあの変な音は消え、余韻すら感じさせない。一時のざわめきの後、民衆は歓声を上げる。開放の慶び。期間ではたったの三ヶ月。だがこの三ヶ月が、民にとってはどれだけ長かったことか。
 城の隧路(すいろ)を、再び通って戻って来た二人。扉を出た瞬間、はたと目が合ったのは、目が覚めた新米警備員。
「お、お前ら! 勝手に城内に侵入したな! あと俺を殴った!」
 警備員としての怒りと、殴られたことの怒りが、一気に噴出した。腰に携帯している部分麻酔銃を取り出すと、トオルの方へ向けられる。だが、背後の影に気付かず、またもレイトにより倒れた。
「なんか、気の毒な奴だねぇ」
 路地を抜けると、そこには人だかりが出来ていた。それは路地の出口を完全に包囲し、英雄を待ち構えているようだった。
「ヒーローのお帰りだ!」
 屈強な男が吶喊すると、周りの皆が応える。二人は大勢に取り囲まれ、広場に案内される。
「な、なあレイト。これは一体、どういう……」
「要するに……勝利宣言をすればいいのかな?」
 数千の人間が雲合霧集している。皆が皆、中心の二人の、一挙一動に注目している。とりあえず早くこの場を離れたく、意を決して叫ぶ。
「ロドリーは屈服したぞー!」
 トオルの宣言に、待ってましたと言わんばかりに歓声が沸き起こる。地が揺れるほどの大歓声に、トオルは一歩身を引く。とりあえず民が騒いでいる内に、輪の中から脱出した。ようやく密度の低い場所に出ると、一気に駆け、その場を離れた。
「マジかよ。何だ、あの人の数は」
 落ち着いたとこに、二人に近寄ってきたのは、ペレスだった。顔には喜色を浮かべている。
「居た居た。今さっき、ロドリーが減税したってニュースが入ったんだ。君たちがやったんだろう?」
「え、もう? へぇ、早いな。――そうだぜ。俺らが倒した」
「凄いよ! 君たち、早くあの輪に戻ろう。あの雰囲気じゃ祭りが始まる」
 群集に喚起されてか、ペレスもやや興奮気味に誘いかけてくる。しかし、トオル等は、冴えない顔をする。思わずペレスは尋ねていた。
「俺たちは先を急いでんだ。だから、これには参加出来ねぇや」
 申し訳無さそうに断るトオルを、無理に止めることは、ペレスには出来なかった。事情を訊かず、ただ意思を尊重する。
「そうか。――じゃあ、その目的を達成した後、是非ここに寄ってよ」
「ああ、出来たらな」
 トオルは右手を軽く上げる。

 二人は、民衆が何故ロドリーを倒したのが、自分らだと分かったのか、不思議に思っていた。事実を街に広げたのは自分だというと、トオルは驚愕し、レイトは自分しか居ないだろうな、という顔をしていた。その勇者はたった今、街を出て行ったところである。最寄のワープポイントは、街の出口から数分歩いたところにある。
(凄いな、あの二人……。本当にやってしまうなんて)
 『第三五番界サウンズキープ ビュートタウン』と書かれた、街の入り口のゲートを潜り抜け、もうワープポイントは見えていた。
「ところでレイト、次はどこに行く?」
「セントラルシティに戻ろう。あそこを拠点とすれば、色々な情報が入って来易いし、何かと中枢の方が便利だろうし」
「オッケー。んじゃ、戻るか」
 この程度の会話をしている間に、ワープポイントに到着した。このような近場に作るのであれば、どうせなら街の中に設置した方が良いのではないか。にわかにトオルは思ったが、さっさと念頭から消えた。
 これで二度目のワープ。もう戸惑いはしなかった。

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