scene3  動き出す歯車

「ったく、徹の奴、受験当日に遅れるなんて普通無いわよ。」
「まあまあ福井、いつものことだろ。」
「でも石川君、今日は駄目でしょう。」
「んー…まあ今日は遅れない方がいいわな。」
桐島高校受験当日。桐島高校を受験する人がどんどん校内に入っていく中、絵美と石川が正門前で徹を待っている。
「おーい。」
「お、来たぜ。」
「ごめん、遅れた。」
「言わなくても分かるわよ。」
三人揃ったところで、徹が言葉を発した。
「じゃあ、三人揃って合格しようぜ!」
「ああ!」「ええ!」


ある都市の郊外の一角に、一軒家が建っている。その一軒家の庭で一人の茶髪の女性が稽古をしている。
『ビュッ』
(リシアを殺したあの男に…復讐するために…。)
この女性の蹴りは凄まじいものだ。脚で風を切る音が聞こえる。だが途中で動きを止めた。
(私の才能じゃこれが限界なの…?)


ザワザワ…ガヤガヤ…。桐島高校の敷地内に特設掲示板がある。そこに入学試験の結果が掲示してある。人生の一番最初の分岐点に差し掛かった元中学生。歓喜の声や悲哀の声も聞こえる。いや、悲哀の声のほうが多い。募集定員400人に対し受験者が約2000名が押しかけ、競争率が5倍強だったのだから。
「徹…遅い!」
「ごめん!っていうかマジすまん!」
「いーや許さない!」
「その手に持ってるハンマーで殴るのだけはヤメテー!!」
いいテンポで会話が繰り広げられている。そのノリを保ちながら合格発表を見た。
「おっし!合格!」
一緒に来ていた石川がまず合格を確認した。絵美は今番号を探している。徹は今人ごみで揉まれ押され潰されている。
「あ、あった!480番!」
絵美が合格を確認した。そして二人とも徹の方を見た。徹はやっと番号を探している状態のようだ。徹は家庭の事情から、私立を受けない単願で桐島高校を受けた。落ちたら働かなければならない。
「あ…、あった!」
徹は番号を見つけた。間違いない、徹の受験番号だ。
「あったぜ、絵美、石川!」
「本当に!?」
「やったじゃねぇか!」
「へっ、俺だってやれば出来るのさ!」
何はともあれ、徹、絵美、石川は揃って桐島高校を合格した。


「もう、大分経ったわ…。私の力じゃ届かない。それを知ってしまった。」
(やっぱり…誰か強い人に依頼するより他は無いかもしれない…。)
茶髪の女性は空を仰ぎながらそう考えていた。ここに来た頃から少し成長した。身体的にも、精神的にも。背は162cmあった。2cm伸びた。もうここへ来て大分経っている。
「元の世界へ帰る手がかりは見つけたけど、条件の達成は私の力では…無理。」


運命の切り替えポイントは、もう目の前まで迫っている。ポイントを切り替えるか否かは、自分自身。

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