scene28 謁見
堅牢で、黒光りしている巨大な門。そのずっと先には、巨大な城がそびえている。門扉の前には看守室。城に続く道はまるで幹線道路並みの幅があった。
その場に姿を現したトオルとレイト、早速ロドリーに会うために、看守室に向かう。相手は王、話を通しておかなければ、会うことも入ることも出来ない。看守室の前に着くと、雑誌を片手に明らかに職務を疎かにしているような男性が見えた。
「ん? 何だ? 用件があるならさっさと言え」
粗暴な態度で、あからさまにこちらを拒否している。
「ロドリー界王に謁見を願い入れたいのですが」
「謁見? 駄目だ駄目だ。それに今は外出中でおられる」
看守は即断だった。どうやらこの街の民が、界王に謁見を願い入れて隙を見て討とうとしたことや、罵声を浴びせるなどがあったらしい。このことで看守は、謁見を願い入れる者は頭ごなしに拒否しているらしい。
「外出かぁ。ならまた次の時でいいか」
「そうだね」
二人が引き返すとき、目の前に巨大な車が止まった。この世界の音が変になっている所為で、ブレーキ音は何か柔らかいものを踏みつけたような音が聞こえた。車の一番後ろのドアから降りてきたのは、ロドリーその者だった。
「何だ? お前らは誰だ」
看守は慌てて看守室から飛び出すと、敬礼し、あらましをロドリーに伝えた。
「そうか、俺様に会いにに来たのか」
「御意。本日はお忙しい中お時間を取らせて申し訳ありませんが、謁見に参りました」
「ほぉ、今まで会いに来た中では中なかなか礼儀が出来てる方じゃないか」
ロドリーは感心したように言う。口ぶりから見ると、どうやら今まで来た民は皆、ロドリーを目の前にすると感情的になったらしい。
「この度は伺いたいことが有り、馳せ参じました」
「そうか、ならば別に中に入らずともここで聴こう。何だ?」
レイトは依然片膝を地に付けたまま、一呼吸置いて喋る。
「その前に、大層な魔法石をお持ちでいらっしゃるようですが、それを拝見させて頂けないでしょうか?」
「ほぅ、俺様の魔法石の凄さに気が付くとは、なかなか目が利くじゃないか。それならこれだよ」
居丈高に言葉を発しながら、右手の親指で首元を指す。そこには大きなひし形四角錘の魔法石が、服につけられている。無色透明で、きらびやかなそれは、所有者にはとても似合わないものであることは確かだ。
「流石に美しいですね。界王様の魅力を引き立てております」
ロドリーの機嫌をとったところで、核心に入る。
「ところで、もしかしたら真魔石というものをご存知では?」
先程から砕けていたロドリーの表情が、瞬く間に凍りついた。
「……何のことだ? 用が済んだならば帰っても良いぞ」
ここで、今まで黙っているしかなかったトオルが、矢の如く言葉を発する。
「おい、真魔石のこと知ってんだろ! だったら話せ!」
「知るか、んなもの! 大体知っていても、お前ら愚民などには教える気も無い!」
「な、愚民だと! お前こそ愚王じゃないか!」
面罵合戦が始まって、間もなくトオルの方がボディガードに取り押さえられた。ロドリーは看守に言い付ける。
「おい、こいつらを城の周りに近づかせるな」
ロドリーの命で、トオルからボディガードが離れる。トオルはまだ興奮状態だったが、レイトが収めた。そしてロドリーが吐き捨てる。
「早く失せろ!」
レイトは素早く反応し、応える。
「そんなこと言わずとも、去りますよ」
鋭い眼光はロドリーの方に差し向けられ、言葉は続く。
「それと、僕たちを余り甘く見ないほうが良いですよ」
「知るか! 消えろ!」
レイトとトオルはロドリーを一瞥し、街中へと歩いていく。ロドリーはこの状況下で、密かに未来を愉しんでいた。
(何が『甘く見ないほうがいい』だ。一般人は皆敗者。だがあいつら何かする気だな。こいつは楽しい宴が出来そうだ)
ロドリーは高笑いをしながら、城の中に入っていった。
一方城からどんどん遠ざかっている二人。目的を果たせぬまま街中に戻ってきた。トオルは苛つきを顔に出している。相手は界王なので手出しできない。
「ちょっと……!」
その言葉は同時に発せられ、見事に重なった。お互い譲り合い、トオルが先に発言した。
「レイト、俺、ロドリーの野郎を一発殴らないと気が済まないんだ。勿論相手は界王だから無茶は出来ないことはわかってるけど」
その言葉を聴いたレイトは、多少驚きつつも同意を混ぜ、軽く笑みをこぼし、鋭い顔つきになった。
「僕も、一泡吹かせたくてね」
二人の意思が合致したところで、いよいよ話は盛り上がる。丁度話を続けようとしたところだった。
「やはり、行くんだね」
聞き覚えのある男の声が後方から聞こえた。二人は素早く後ろを振り向く。そこにはやはり見覚えのある人影があった。銀色の髪、ふちの無い眼鏡。昨夕カフェテリアで、他に席が沢山空いているにもかかわらず、トオルの横に座ってきた優男。――話を聞かれていた。
「そう思ってくれることを願ってたよ」
「お前、昨日の……」
「うん、よく覚えていてくれたね」
男はにっこりと笑ってトオルを見返す。その笑顔に裏はあるのか――。
「あなたは一体何なんですか?」
レイトは男に向かって、単刀直入に問う。男は一息つき、答える。
「僕はペレス・リースマン。ただ単に君らの話に興味を――」
「違う」
ペレスと名乗った男の話を、途中で遮ったのはレイト。リースは尚も笑顔を崩さない。レイトは更にそこが怪しく思える。
「本当のことを、話してください」
レイトの真剣な表情に、ペレスは真実を話す。
「あなたは一体何者なんですか?」
「……僕は、ロドリー界王専属の機械発明設計士だ」
「――ロドリー専属……!」
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