scene24  手加減

雑貨の町グリンバール。ここはセントラルシティに次いで、商品の品揃えが良い。そこへやってきたのはトオルとレイト。迷わず雑貨店に入ると、早速お目当ての物を購入出来たようだ。すかさずレイトが購入したものにトオルが尋ねる。
「レイト、それなんだ?」
「ああ、そうか。トオルの居た世界ではこういうの無いんだったね」
あの日公園で、トオルは地球から来たことも告げていた。

レイトはこの町の真ん中にある広場まで来ると、先程購入した道具を取り出した。それは縦に細長いドーム型をしている。地球で言わば、いわゆるコンセントにコードを差し込むだけで、蚊を沢山落とすとうたっている商品の形に似ている。
「じゃあ行くよ」
そういうとレイトは、目の前にトオルのバッグを置いた。そしてその道具をバッグに向けた。その瞬間、音もせずバッグは消えたのである。
「え!?何だ!?」
レイトは説明を始めた。
「この道具はポケットケース。どんな大きなものでもこの手のひらサイズの箱の中に納まってしまうんだ」
「ひゃあ、すげぇなこの世界」
「体積が合計で1立方メートルまでならどんなものでも収納可能。体積って言っても原子レベルから測定されるから相当入るよ」
このポケットケースという道具は、この世界で爆発的な人気を博し、どの店でも品切れ、品薄状態が続いている。1つ28,000ゲルクという高額にも関わらずだ。因みにこの世界の物価は日本の現在の物価と同じと考えていいだろう。まあ不景気という概念はこの世界には存在しないが。

ドン
トオルがその凄さに驚いて腕を引くと、後ろに居た人に当たってしまった。トオルは気付き、謝ろうと振り向くと、相手がいきなり怒ってきた。
「てめぇ。俺に肘打ちとはいい度胸してんじゃねぇか」
金髪の箒頭の若者。かなりご立腹の様だ。
「すんません」
「ああ!?謝って済むと思ってんのかコラァ!」
箒頭はトオルの胸倉を掴んできた。このような喧嘩ごとには、トオルは冷静に対処する。
「だから言ってんだろ。すんませんって」
「てめぇ…、なめてんだろ…!?」
火に油を注いだようだった。しかし勿論トオルは狙ってやっていた。久しく喧嘩などしていないからだ。
「やめとけよ、コール。こんなガキンチョ相手にやるのも大人気ないぜ?」
こちらは茶髪でロン毛だ。どうやらこの箒頭、コールを止めに来たらしい。だが流石のトオルも『ガキンチョ』には頭が来た。しかしこの2人、がたいが良い。相手が1人ならまだしも、2人となると勝てるのが分からない。トオルは自分を抑えた。
「はは、糞ガキ、助かったな。次はボコってやるよ」
2人は笑いながら去っていった。
「くそ、仕返し出来ねぇなんて…」
トオルはとても悔しがった。隣ではレイトの眼が光っていた。だがそれはすぐに消えた。
「トオル、ゴメン。またちょっと一人にしてくれないかい?」
「ん、ああ。」
レイトはトオルをその場に残し、さっきの二人組みの歩いていった方へ行った。

雑貨の町、グリンバール。この町の出口は2つある。1つはトオルたちがやってきたセントラルシティ方面への出口。こっちは完全に均されている。もう一つの出口は、出たらすぐに森の中を通っていく道がある。さっきの不良たちの行った道、レイトもそこを出ると、丁度不良たちが横道に入っていくとこを目撃した。
(ふぅん、そこだったんだ…)
レイトもあとにつき横道を入っていく。そこを抜けるとぽっかりと木の生えていない空間が姿を現した。
「成る程、ここが拠点か…」
わざと聞こえるように発した声に二人とも反応し、箒頭、コールの方が話しかけてきた。
「黒髪と一緒に居た奴か…。つけてきやがったな」
だがコールは、やり返すチャンスと言わんばかりの顔だ。レイトもある意志があってきたようだ。
「てめぇ、つけてきたってことは何をするかは分かっているな…?」
「もちろんさ。でもこっちは少しばかり機嫌が悪くてね。手加減がいつもより弱くなってしまうかもしれないから…」
「は、言ってな。俺に勝てると考えてる上に手加減するだと?お前の頭、既にいかれてんじゃねぇか?」
レイトはフッと不敵な笑みを浮かべその言葉を受け流した。
「僕に勝てると思っているなんて。それに笑っちゃうよ」
レイトは余裕たっぷりにその言葉を発した。それがコールを怒らせた。
「馬鹿が!」
その瞬間、コールが猛ダッシュで来た。コールがレイトに殴りかかった。
ブオッ
レイトは一歩も動いていない。だが拳は外れた。コールはそのまま前方に倒れた。
「コール!」
もう一人の男がコールの名を叫ぶ。だがコールは起き上がらない。コールの周りに大量の血が広がっていくのが分かった。
「う、うわぁぁぁぁぁ!」
男は発狂し、レイトにサバイバルナイフで襲い掛かった。しかし結果は同じだった。一瞬にして腹が裂け大量の血が噴出し、その男は倒れこんだ。
「…殺しはしばらく辞めることにしたよ」
実際、コールとその仲間は死んでいない。意識が無いだけだ。レイトはその場を去った。

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