scene21  第1試験・最終試験

第1試験、ワープ。ワープといっても、それは人間の能力の限界を超えているので、生身では不可能。そのため何においても魔法石を使う。このワープの試験は、部屋の対角にある魔方陣から、その対角の魔方陣にワープすること。
「それじゃあまずは僕が見本を見せよう。」
トージは魔方陣の中心に立ち、手に魔法石を握り締め、力を入れた。
「トリップ。」
その瞬間、目の前からトージは消え、奥の魔方陣に姿を現した。そして再び手前の魔方陣にワープし、説明を続けた。
「この時点で『トリップ』とわざわざ口にすることは無い。念じれば充分。」
そして更に続けた。
「コツは兎に角集中すること。余計な雑念が入るとワープ自体出来なかったり、念じた場所と別の魔方陣にワープしてしまう。まあ後者はここでは関係ないが…。」
「僕から行かせて貰うよ。」
レイトはサッと身を乗り出し、魔法陣の中心に入った。
「お、出来るかな。」
レイトがペンダントについている魔法石をギュッと握り締め、眼を閉じうつむき加減に念じると、一瞬の内に奥の魔方陣にワープしていた。
「レイト君第1試験合格~。」
「次はトオルの番だよ。」
いよいよトオルの番が回ってきた。しかしトオルは生まれてこのかた、喧嘩以外に集中した覚えなど無い。やや不安を持ちながら魔法陣の中心に入った。ポケットからユカに授かった魔法石を取り出し、頑張って集中した。すると意識がスッと何かに引き込まれる感覚になった。そっと目を開けてみると、トオルは別の魔法人に居た。レイトがこっちを見て微笑んでいる。トオルもそれに応えるかのように、親指を上に立てた。

「いやぁ、二人とも一発で第1試験クリアとは…。全く予想外だったよ。」
トージが本当に驚き呆れた顔で話した。
「何だよ、それじゃあ俺らが受からないものだったみたいじゃないかよ。」
「まあまあ。」
トージは、向きをさっきこの部屋に入ってきた扉の方に向けた。
「とりあえず、また受付ロビーに戻るから付いてきて。」

「おめでとう!」
受付係の女性とトージが声を合わせた。トオルとレイトは全く何のことだか分からない。
「これで全試験終了、君達は合格、おめでとう。」
「ええー!!?」
今度はトオルとレイトが声を合わせた。
「実はワープは一番難しいもの。ここは難易度が高いほうから順にやっていくシステムなんだ。」
トージの口から出た驚きの新事実に、レイトは訊き返した。
「何故わざわざそんなことを?」
「ワープ以外は本当に基礎のもの。基礎がしっかり出来るからワープが出来るわけであって、時間を短縮するためのものさ。」
更に続ける。
「高レベル者は最初のワープクリアで即合格。次に段々試験レベルを下げていって、ある一定のレベルが出来ないものはそこで切り捨て。一定のレベル以上の者は、次の段階が出来るように訓練させる。一見効率が悪いようにも聞こえるが、最初にワープを持ってくることによって、最初から自身の無い奴を諦めさせて手間を省く作戦。ワープが出来なくて、その1段階下の試験がクリアできる奴でも、ワープが出来なかった時点でリタイアするならそいつは放っておく。ワールドトラベラーは精神力が非常に重要だから。」
レイトは納得している。トオルはショートしている。
「はい、免許証。」
受付嬢から免許証が渡された。二人は喜んで受け取った。しかし、レイトだけは免許証を見た途端に顔色を変えた。
「じゃ、おめでとう。色んな世界を旅してね。」
「ああ、サンキューな。トージさん、そして…えっと…。」
「ああ、私の名前はメールよ。」
「メールさん。」
そしてトオルが後ろを振り向いた。
「トオル、ちょっと待っててくれないかな?」
「ん?」
すると鋭い眼差しで、薄く笑みを浮かべながら言った。
「トージさん、メールさん。少し、お話させていただいても、よろしいでしょうか?」
「…別室で…。」
その3人の中で、空気が変わった。

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