scene18  大きな家はご用心

「次はこの家だ…。」
金髪、赤い瞳、首にはペンダント。この特徴から当てはまる人物は1人しかいない。世紀の大泥棒とうたわれる、ファイヤー・エドウェイズしか。
「政治家、ヘンリー・フィラデック。総資産130億ゲルク。全て私腹の肥やしに使われている…。」
ファイヤーは一人でつぶやいた後、続けた。
「クソが。」
ファイヤーは眼光が鋭くなっていた。見る者は全て寒気がするだろう。
(実行は19時、いつもの通り玄関から…。)
ファイヤーはその場を去っていった。

バッドネス・エクスターミネーター社(以下BE社)、犯罪者撃退組織。地球でいう警察の役割を果たしている。だが、この中央界(セントラル)には国家警備視察団という国の警察組織がある。BE社は民間企業なのだ。しかし今は国家警察よりBE社のほうがシェアが高い。通報数の9割5分は、BE社に行く。それは、過去にスパイ・シーフという大犯罪組織を壊滅させたことがあるからだ。今は国家警察と同じくらいの検挙率があり、お互いに競い合っている。

総長、ボート・K・デイト。この組織を立ち上げたのが4年前。上記の件で一躍大企業のトップに成った。
「…ククク。成る程な。…があれば…。」
まだ日が照っているというのに、この男のいる部屋は、薄暗く、重苦しかった。

「さあて、18時57分。あと3分だ。」
大きな屋敷の前にファイヤーが立っていた。
「あと2分…。」
今日、ファイヤーが盗みに入る予定の大豪邸。日は落ちた。西の空の茜色が徐々に薄れ始めてきている。
「あと1分。」

「トオル、そろそろ泊まる所を探しに行こうか。」
「おぉ。」
レイトの言葉に相槌を打ち、トオルたちはセントラルパークを抜けていった。
「それにしてもよく、その、BEって奴らが来たとこに堂々と戻ってこれたな。」
ここは先程、トオルたちが駆け上がってきた階段の、出口の近くだ。
「BEは、統率力は取れているけど、末端の方は頭が悪いから。」
それでよく警察並みの検挙率が取れるものである。

シュッ、スタッ。
屋敷に一人の男が忍び込んだ。高さ3mの門を越えて、堂々と正面から入ってきた。門から玄関までは約10m。そこをゆっくりと歩いていった。ファイヤーにしては珍しいことだった。いつもは夜半を過ぎてから犯行に及ぶ。だが今日は夜になったばかり。玄関を目の前にして一瞬にしてドアを焼き払い、家屋内へ侵入。足音を立てず、金庫室の前まで行った。家人は焼けたドアに大騒ぎ。ファイヤーの犯行は大胆だ。炎の熱で金庫の錠を溶かし、まんまと中身を盗み出す。
「あ、お前か!?」
家主に見つかった。だが驚くことは無い。動じない。
「!…お、お前は…ファイヤー!?」
「そうだ。俺がファイヤーだ。やはりお前も知ってたか。」
「当たり前だ!その『炎の真魔石』のペンダントが証拠だ!」
家主は相当興奮している。
「真魔石を知っているか…。お前はちょっと知りすぎだ。」
常人の目には見えない速さだ。あっという間にファイヤーの右手が家主の首を掴んでいた。
「死にはしねぇよ。だが、お前が人と話せるのは今日で最後だった。見ることも、食べることも、聞くこともなぁ!!」
ファイヤーの手によって、家主の首が焼かれた。不思議と首だけに集中して焼かれた。
「これが炎の真魔石よ。」
ファイヤーが合図すると炎が消え、家主は倒れた。首は焼けただれている。
「生きることとションベンすることは出来るぜ。」
金庫の中身を全て奪ったファイヤーは、焼け焦げたドアの残骸を通り過ぎた。

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