scene17  大きな家にご用心

翌日、トオルはレイトのことを信頼した。また、レイトもトオルのことを信頼した。二人が出会った昨日、ビル裏に逃げ込んだ後色々と話した。その過程でお互いに両親がいないことを知り、お互いに目標に向かっていることを。

しかしレイトは少し悔やんでいた。これほど信じられる相手は自分にとって初めての経験であり、彼の前で殺人をしてしまったことが残念で仕方が無かった。しかしこれは、『そのようなことを悔やんでいても仕方ない』レベルで片付けられるものでもない。レイトの心にはそれが重く圧し掛かっていた。だが、それはトオルに何か言われるまで背負い続けることにした。もしその時にトオルと別れることになっても、その時までトオルと一緒に居たいという心情からだった。レイトにはトオルしか話せる相手が居ないから、それも何年以来か…。

「あ、そうだ。」
「どうしたの?」
トオルが突然何かを思い出した。
「ワールドリンクトラベルって資格あるだろ。あれってどこ行けば取れるんだ?」
「ワールドリンクトラベル?それならこの近くに試験受付所があるよ。今から行ってみようか?」
「行く行く!」
レイトが試験受付所の場所に案内することになった。

レイトは3階建ての建物の前で足を止めた。
「ここだよ。」
その建物は地球にも普通にあるような、ビル風な建物だった。二人は早速その建物に入っていった。

建物の中は至って普通だが、やや薄暗い感がする。今は昼なので、外からの光がガラス張りの扉から射し込み、床に扉の形に日向が出来、ロビーがうっすら明るくなっているが、電気が付いていない。夜になると真っ暗だろう。
「いない…な。」
トオルがゆっくりとロビー内を見回したが誰も居ない。レイトもそれを確認する。するとレイトは受付口にある呼び鈴を見つけた。レイトはそれを押し、呼び出しを掛けた。しかしまだ建物内はシーンとしている。
「いないのか…?」
「はーいすいませーん。」
その声とともに女性が現れた。
「すいません。えと…試験の申し込みですか?」
セミロングのストレートの髪はなんだかすこしボサボサだった。
「はい。それで最近の受験日はいつになりますか?」
トオルの代わりにレイトが訊く。
「えーとですね、あ、明日が受験日ですね。登録申請しときましょうか?」
「お願いします。」
手元にあったパソコンをカタカタいわせ、データを打ち込んでいる模様だ。
「受験希望者のお名前と性別とお年を。」
「ミヤザキトオル、男、16歳。」
「レイト…イスペリー、男、17歳。」

登録証明書と受験場所等が書かれた用紙を貰い、とりあえず二人は再び街に出た。昼は人通りが多い。自動車は地中を走行しているため、車道は地上には存在しないが、人の多さはやはり凄い。地球で言えば大阪の道頓堀まではいないがそれに値するだろう。
「やっぱどの世界でも都心は人が多いなぁ。」
トオルはやや関心気味に言った。二人は少し人ごみを避けるために、住宅地に入る道を通り、一旦二人がであったセントラルパークで昼食を取る予定でいた。
「ぉ。」
一際目立つ大きな住宅。どこからどう見ても金持ちの住む家だ。しかしやはり一番進歩した世界は違う。地球とは金持ちの桁が違う。一般人の普通の家でも芸能人が住んでいそうな大きな家だ。その中でも金持ちっぽそうとは。野球場一つ分くらいありそうだ。だがトオルはその家をスルーした。理由は単純、『大きすぎる家には悪い奴が住んでいる』。トオルの持論だ。一人の男とすれ違った。
「!」
レイトの顔が刹那だけ、何者も感じられない程度に強張った。レイトは平常心を保ち歩き続ける。トオルも流石に変化に気が付かなかった。

すれ違ったのは金髪ショートヘア、目尻が上がって赤い眼。その男はその大きな家の前に立ち止まり、その家の門のほうを向きつぶやいた。
「次は…、ここだな。」

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