scene16 Smile
「俺を殺そうとしたとき、何であんな辛そうな顔をしたんだ?」
(!)
青髪の少年は驚きを隠せなかった。
(馬鹿な…!僕は感情は隠した…。ずっとずっと奥に。なのに、この人はその微塵の変化が分かったというのか!?)
青髪の少年は頭の中で葛藤していた。この少年をどうすべきか…。
「この非常階段が怪しいぞ。上にのぼれ!」
下のほうから男性の声がした。どうやらバッドネス・エクスターミネーター(以下BE)の人間が来たらしい。カンカンと階段を駆け足でのぼって来る音も聞こえる。
「こっちだ!」
その青髪の少年はトオルを呼んだ。トオルは一瞬驚きつつもその少年のあとを付いて、階段を駆け上った。
「くそ、見失った!」
遠くからBEの警官が悔しがっている声が、小さく聞こえる。ビルとビルとの隙間の奥に6畳くらいの小さなスペース。そこに二人は逃げ込んだ。少しホッとしたトオルだが、すぐさま気持ちを切り替え、その少年の方を向いた。しかしどうしたことか殺気が微塵も感じられない。トオルがやや戸惑っていると、
「君、名前は?」
気の抜けるような優しい声だ。トオルは気構えるのをやめた。
「トオルだ。ミヤザキトオル。」
「トオルか。僕の名前はレイト・イスペリー。よろしくトオル。」
微笑んだレイトを見て、トオルは訳が分からなくなった。
「レイト、俺を殺そうとしてたんじゃないのか?」
「やめた。」
あっさりと返された。間髪を入れずに。
「トオル、君は僕の心情に気付いた。そう、僕は無関係の人間を殺したくは無かったけれども…。」
レイトの顔は一瞬暗くなったが、一転し話し続けた。
「それがね、凄く嬉しかったんだ。今まで僕の気持ちを分かってくれたのは両親だけだったから。」
レイトは嬉しそうな顔で話した。
「レイト、何がどうなのかは知らねぇが、お前が殺しをしているのも『仕方なく』なのか?」
一瞬時が止まったような感じになった。
「…『仕方なく』…だね…。」
それは風も音も何もかも、一瞬だけ止まったからだった。
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