scene15 A boy's homicide
この青髪の少年は二つの顔を持っているようだった。トオルにこのエレベーターの行き先を教えたときは、とてもにこやかに優しい顔だった。しかし、トリニーノ議員のもとへ向かうときや、今思案している顔などはとても強張っている。
(…仕方ない…。まずはトリニーノを先に殺り、怨みは無いがこの少年にも死んでもらおう。)
行動を決定した少年のそのあとの動きは素早かった。一瞬でトリニーノの胸倉を掴み、エレベーターの壁に押し付けた。
『ダンッ』
その音にトオルも反応した。
「僕はセールメントの者だ。そう言えば解るだろ?さあ、首謀者は誰か吐いて貰おうか。吐かなければ貴様に訪れるのは死だ。」
この科白にトリニーノ議員は恐ろしく怯えていた。トオルも過激な科白には驚きはしたが、その言葉の意とすることは分からなかった。
「言う、言うから助けてくれ…。」
「…言え。」
トリニーノ議員の声はとても震えていた。表情を見ても、青髪の少年が名乗った辺りから尋常じゃなく怯えた表情に変わっている。
「しゅ…、首謀者は知らん…だが…ぁぁ、ク…クレニケロの奴が関わっ!…がっ…ぁぁはぁっ…――。」
喋っている途中で突然胸を押さえ苦しみだしたトリニーノ議員は、そのまま崩れるように座り込み、息を引き取った。
「え!?…なっ!!?」
トオルは酷く慌てた。どうなったかは分からないが、突然人が死んだ。勿論、幾度と無く喧嘩をしてきたトオルでも死体などは見たことが無い。突然、青髪のその少年はこっちを振り向いた。そしてこっちに近づいてきた。3m×3mの箱の中に逃げ場は無い。
「悪いね。目撃者の君にも死んでもらうよ。口外されては都合が悪いからね。」
その瞳は青く冷たくトオルを見下ろし、睨みつけていた。トオルは金縛りのように動けなくなった。
「…済まない。」
(!?)
その少年の手がこっちに向けられた瞬間だった。
『ピンポーン、ガー』
エレベータの扉が開いた。地下駐車場についたのだ。外には夫婦が一組立っていた。
「きゃぁぁぁぁぁーーー!!」
女性の悲鳴が地下駐車場中に響き渡った。
「ちっ!」
その少年はエレベーターを飛び出し、走っていった。
「待て!」
トオルはその少年を追いかけた。
エレベーターから少し離れたところにある非常階段を、二人は凄い勢いで駆け上っていく。そしてビル10階分ある階段の半分辺りで、トオルはその少年を捕らえ、倒れこんだ。
『ガッ、ドサァ』
「よぉし、捕まえたぜ。」
するとその少年はキッとこっちを見てきた。トオルはサッと上からどいた。その少年はゆっくり立ち上がった。トオルより背が高い。鋭い目つきでこちらを向いた。
「君はまた、僕を狙いに来た者の類か…?」
「狙いに?何だそれ。俺はただ、お前が気になって追っかけてきたんだよ。」
「…!?」
トオルの一言にその少年は一瞬驚いた。
「気になった…だけか…?」
「当たり前だ。それ以外に何もねぇ。」
青髪の少年は、眼光は衰えずとも、確実に困惑していた。
「俺が気になったのは一つだけ。俺を殺そうとしたとき、何故あんな辛そうな表情をしたんだ?」
「!」
青髪の少年は今度は大きく驚いた。心境は完全に隠していた。なのに読み取られたことに。つい、一歩後ずさりしてしまった。非常階段には、地下からバッドネス・エクスターミネーター社、地球でいう警察のパトロールカーのサイレンが小さく響いてきていた。
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