scene14  セントラルシティにて

「え、えーと、アウェ…?」
トオルは今、セントラル界の最大都市、セントラルシティに向かって歩き続けている。歩きながら、この世界の言語の練習に励んでいる。まだ読み書きは出来ないが、話言葉はその殆どを習得した。勉強嫌いなトオルだが、必死になれば出来る男である。実際、桐島高校に入学出来たのも、試験勉強を必死にやったためだ。

一本道を歩き続けて1時間。目の前の木々が消え草原地帯に出ると、ところどころ家が建っているその向こうに、大きなビルが幾つも建っているのが見えた。
(セントラルシティ…でかっ!)
徹が驚いたのはビルの高さ。一見してもゆうに500m級のビルが真ん中に居座っているのが分かる。他のビルは現代の東京都と変わらない。
((39個の世界にはそれぞれ文明が発達している順に番号が付けられる。セントラル界は第1番界。一番文明が発達している世界よ。))
トオルはユカから聞いた言葉を思い出した。
(そういえばそんなこと言ってたな。)
驚きで足を止めてしまったトオルだが、再びセントラルシティへ向け足を踏み出した。

「次は…、市議会議員、トリニーノ・トリフ。今日のスケジュールはセントラルパークでの州知事選演説。」
メモを読み上げ、それをズボンのポケットにしまった。セミロングの青い髪をなびかせながら、路地から大通りへ出、左側の横髪を耳にかけた。細長い紫の八面体のピアスが怪しく光った。
「あと…少し。」
その少年は町の雑踏に消えていった。

トオルがセントラルシティに到着した頃だった。左手側向こうの大きな公園の中で、簡易ステージのようなものがあるのが見えた。トオルは興味本位で公園内に入っていった。そのステージの前では、主に40代くらいの人が中心に集まっていた。
(演歌歌手でも来んのか?)
そう思っていると、スーツ姿でビシッと決めた60代半ばくらいの男性が壇上に上がった。
「皆様、今日はお集まり頂き、誠にありがとうございます。」
トオルはこの世界の言葉を聞き取れるようになっている。勿論これも解った。口調から自信家の風に思える。
「この州知事選、必ず私が勝ちます。」
(こんな進んだ世界で、世界に一つしか国はないらしいけど、やっぱり地域ごとに統率者は必要なのかな…。)
「――…であります。ではこの度は、このトリニーノ・トリフ、トリニーノ・トリフをよろしくお願いします。」
はっとトオルは我に返り、今まで何の面白みも無い選挙演説を聴き続けていた自分に嫌悪感を感じた。
(何でこんなの聴いてんだろ…俺。)
皆がぞろぞろと帰っていく中、トオルもその中に混じり公園を出口に向かって歩いていた。その中に、一人だけ逆方向に歩いている者が居た。青い髪の少年だった。トオルは一度気付いたが、気にも留めず歩いていった。しかし、トオルは何か違和感を感じていた。

トリニーノ議員は特異だった。普通、出馬議員、応援、車両運転手、などの最低3人以上で行う街頭演説を、全て一人で行っていた。その為、特設ステージの片付けは一人で行う。だがこの世界は地球と違い文明が発達しているため、縦2m横3m高さ1mの台くらいなら、ボタン一つでコンパクトに折り畳むことが出来る。まさにトリニーノ議員がその作業を終え、台を車にしまいに行く作業の途中だった。この世界は人身事故削減のために、基本的に車は地下、列車は地上10m以上を走行することになっていた。車に乗り込むためには、街の所々に設置されているエレベーターに乗って地下駐車場に行かなければならない。トリニーノ議員がそのエレベータに乗り込むと、後ろから来ていた青髪の少年もそれに乗り込んだ。そして扉が閉じようとしたときだった。
「これ、何処行くんですか?」
エレベーターの外から話し掛けたのはトオルだった。それに青髪の少年は優しく答えた。
「地下駐車場だよ。」
「ほぉ、そうなんだ。俺も乗るよ。」
またしても興味本位で今度は地下駐車場に行くことにした。
(地上に車が無かったのは地下を走っていたからか。事故を減らすには道理だな。)
トオルはやや納得した。しかしどうやらエレベーターの移動速度は地球と同じらしい。

だがここで計算が狂った。完全にトリニーノ議員と密室になる予定だったが、余計な者が一人入ってきてしまった。しかし決行するのは今ここしかない。青髪の少年は何を考える、この密室で…。

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