scene13  出発の朝

出発の朝、どうやらトオルは昨日の答えが出ずに寝てしまったらしい。しかし幾ら考えても答えは出なかっただろう。いや、最初から答えなど無かったのかもしれない。トオルはいそいそと荷造りをしていた。
「えと、あれ持った、これ持った…。あ、そうそう…。」
どうやら何か入れ忘れていたものを思い出したらしい。デスクから、電子辞書を取り出した。それは「地球語辞典-日本語編-」と、この世界の文字で書かれたタイトルが入っていた。

-作者註:これより以下説明文面は読まなくても構いません。-
「地球語辞典-日本語編-」とは、セントラルその他、ワールドリンクトラベルで移動できる世界全て充てに出版された電子辞書である。勿論中身は全てこれらの世界の言葉で書かれている。この世界の文字が印刷してあるキーを押してこの世界での単語を入力する。すると日本語文字でそれに当たる言葉と、その隣にこの世界の文字で読み方と意味が書かれている。発音ボタンを押せば、言葉の発音まで聞ける。この辞書は自動配信されている情報を電波で受信し、内容を常に最新のものに自動更新される。サイズは縦135mm、横106mmで折り畳み式である。収録語数は34000語以上(固有名詞含む。)。重さも116gと超軽量型。最新式モデルで29800G。(G1=¥1)この他にもフランス語、ドイツ語、中国語辞典もある。今なら期間限定で、お買い求めの方には特製ヘッドフォンも付いてくる。発音を聞く際に使用することが出来る。お問い合わせは、株式会社スウェールズ電化まで。
-以上-

その電子辞書もリュックにしまった。この世界の常用語は世界共通語と、英語。世界共通語は勿論、英語もさほど読めないトオルには欠かせないものである。

準備を終えたトオルが1回へ降り外に出ると、そこには既にエミとユカが待っていた。
「トオル、これからがあなたの試練よ。試験会場は先刻教えた通り。まあ街まで一本道だし、街に入ったらそこらじゅうに案内図があると思うわ。」
「ああ。」
トオルはエミのほうを向いた。昨日の夜までは普通だったが、今はどことなく寂しそうだ。
「エミ、どうせ、あとで逢えるんだ。お前がこっちに来るんじゃないか。」
トオルは今度はこっちが励ます番だと、エミに話しかけた。
「そうだよね。逢えるもんね!」
エミは持ち前の立ち直りの早さとトオルの励ましによって、みるみる立ち直った。
「いってらっしゃい。」
「行ってらっしゃい。」
「じゃあ、行ってくるな。」
トオルは三歩進んだとこで振り返ってこう叫んだ。
「エミ、後から必ず来いよ!」
「勿論!」
「じゃあな!」
エミの精一杯の返事に、トオルも元気良く歩いていった。ユカとエミはトオルの姿が小さくなるまで見送った。

家に入るとおもむろにユカが話し始めた。
「エミちゃん、確かワールドリンクトラベルの話をしてるとき、何故私がこの世界のことに詳しいか、って訊いたわよね?」
「え、はい。」
「それはね、私がここへ来た当初、トオルと同じ考えを持ち、同じ行動をしたから。」
「え!?」
「そしてゴール手前で挫折したわ。あそこまで行くには断崖絶壁を登るようなもの。最後は鼠返しを登るの。とても大きな、広い。なんて無謀だったんだろう…と、あの行動を私は悔いる。」
エミにはユカの背中がとても悲しく見えていた。

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