scene12 故郷は青い星
ここに来て今日で一週間。トオルは魔法石の力を90%引き出すことが出来るようになり、エミは未だトランプタワー、サイコロタワーを積み上げていた。
「ユカ、一つ訊く。」
「何?」
「あのエミの特訓は何の意味があるんだ。ただ単にトランプとサイコロを積んでるだけじゃねぇかよっ!」
トオルは不満げな顔全開でユカに問うた。ユカはそのトオルの顔を振り払いながら答えた。
「あれは、集中力をつけるための特訓よ。トオル、あんたの魔法石の能力、『無形物の有形化』と違って、エミちゃんの魔法石の能力を自在に使うには相当な集中力が要るの。」
「!何だ、その能力って。」
「どうでも良いでしょう?それより、剣を出したいんでしょう?それなら早くそれが出せるように練習してきな。」
トオルは渋々練習を続けに行った。
この一週間、トオルは不完全ながら記憶(無形物)を使い、ぼんやりと剣の具現化に成功していた。エミはずっとタワーを作っていた。だがしかし、その集中力は驚異的なものになり、トランプタワーはトランプを2セット使って作り、サイコロタワーは30個で一棟だ。
「出来たぁー!」
外からトオルの叫び声が聞こえた。ユカが外へ出てみると、トオルの手には完全に具現化された剣が握られていた。
「凄いじゃない!…形は不細工だけど。」
「いいだろぉ!別に。」
トオルが握っている剣は確かに不細工だ。果たして剣と呼べるのか?1本の先の尖っている鉄の棒に、鍔が付いているだけの様だ。
「あー、早ーい。」
家の2階の窓からエミが身を乗り出して叫んだ。
「エミ。」
「トオル早ーい。ずるーい。私まだなのにぃ!」
「ははーん、悔しかったらエミも魔法石を使ってみな。」
「うう~。」
トオルは本気で優越感を得、エミは本気で悔しがっていた。
「私だってその内トオルより上手く使ってやる!」
「ほらほら、俺はここまで来たぞ~。」
エミは本気で悔しがってる顔をし、窓から体を引っ込め、トランプタワーの続きを作り始めた。
(やっぱりこの二人、仲がいいのね。)
ユカはそんなことを考えていた。そして唐突にトオルにこんなことを話しかけた。
「トオル、あなた、もう資格取りに行っても大丈夫よ。」
「お、マジか!やったー!」
「だけど、先を急ぐなら明日、すぐに出発しなさい。」
この言葉でトオルの喜びはやや小さくなった。
「…え、待てよ、エミは…どうなるんだ?」
「後ほど合流、ってことになるわね。」
トオルの顔はさっきよりやや暗くなっていた。
急遽出発が明日に決まり、トオルは部屋で考えていた。木で出来たデスクに座り、肘をつけ、ボーっと考えていた。
(エミと、一緒に出発することが出来ない。あとから来るっつってもそれがどんなに遅くなるか分からない…。)
トオルの考えはいつになってもまとまらない。答えの無いクイズを解いているかのような難しい問いを、自分自身に振りかけている。暗くなった空には青色の星もいくつか見える。あの中に地球がある、なんてことはあり得ない。地球は見えない。地球からも見えない。自力で見えるようにしなければならない。帰る路はそれしかないのだから。
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