scene11  僅かでも強き光

「なあ、ユカ。」
「何?」
「本当にそれだけなのか?」
「ええ、本当にそれだけよ。」
「マジでか?こんなに簡単なのか?」
「簡単かどうかはあなた次第よ。やり方はそうだけどコツを掴むのは並大抵じゃ出来ないわ。」
既に今日の訓練は始まっている。まずは魔法石の使い方のようだ。かといっても魔法石を始めて触るトオルに、何らかの効果が使えるわけが無い。とりあえず魔法石が反応するようにならなければならない。魔法石の反応、とりあえず光れば良いらしい。
「えーと、体中の気を魔法石に集中させる感じで…。」
トオルは眼をつむり、魔法石を握り締めている右手に集中した。
『チラッ』
「あ、トオル、今光ったわよ。」
「え、マジか!?しまったぁ目ぇ閉じてたぁ~。」
魔法石の輝きは極僅かなものだった。しかしその極僅かな反応によってもたらされる力でも、充分効果が得られることをユカは知っていた。
「よし、もう1回光らせてやる。…今度は目を開けて!」
トオルは今度は目を開けて右手に集中した。今度ははっきり輝いた。さっきより強く。
「おお!光った!凄ぇ。――これで魔法石の力を使うことが出来るのか!?」
「まあ、恩赦をちょっと受ける程度ね。その程度の共鳴なら。」
「何だ。それでそれってどのくらいだ?」
トオルはユカに訊いた。
「魔法石は、シンクロすると基礎体力が飛躍的に上昇するわ。例え極僅かな反応でも。だから今の反応を見る限りでは、脚力なんか20%くらい上がってるはずよ。」
「へぇ。この程度の光でもそんなに効果があるのか…。」
トオルはその言葉を聞き、思い切りジャンプした。
『バッ』
「お。」
『スタン』
「何かいつもより高く跳べた気がする。」
「でしょう?その代わりと言ってはなんだけど、肌身から離すと効果は消えるわ。それに訓練を積んでいけば、何もしなくても魔法石がシンクロしてくれるわ。」
トオルは感心し、掌を開け魔法石を見た。

――――。
『コンコン。』
「どうぞー。」
「どう?エミちゃん。順調?」
ドアをノックし、エミの部屋に入ってきたのはユカだった。見るとエミはデスクに向かってサイコロタワーを積み上げていた。途中のタワーには既に12個積みあがっていた。その周りには15個積みあがったタワーが4棟。
「凄い順調ですよ。大分慣れてきました。一つにかける時間も最初の半分くらいになりましたし。」
エミは、苦もなさそうな余裕の表情を見せていた。
(凄い、この短期間でどれだけの成長を――。)
「この調子でマッチ棒を縦に積みあ。」
「無理です。」
ユカがまだ発言している途中に、エミは即返答した。
「ところでトオルの方は今どうなんですか?」
「トオルはもう魔法石を使えるようになってきたわよ。」
「え!くそぅ!負けてられない!」
エミはあからさまに対抗心を見せると、再びサイコロタワーの制作に取り掛かっていた。
(この二人、お互いを刺激し合ってるのかも…。―私もこの二人に刺激されてるかもね…。)
ユカは複雑な表情を見せ、エミの部屋のドアを閉じた。

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