scene10  星空は七色に輝いて

ユカの家の2階、エミの部屋――。
「ふぅ、やっと出来た。――トランプタワー…。」

「タァリャア!」
『ガシィ』
家の外では今日もトオルとユカの特訓が続いている。
「トオル、そろそろ休憩しましょう。3時間もやりっぱなしよ。」
「え、もうそんなに経ったのか?」
ユカの一言で、トオルは一旦手を止めた。昨夜、結局深夜まで特訓を続けていたトオル。しかし、一切の疲労も見せず、今日は13時から特訓を始めている。逆にユカの方がペースについていけない。
(何て、スタミナよ。こんな…私がついていけないなんて。)
ユカは息を切らし汗をかいている。だがトオルは汗はかいているものの、息のほうはすぐ落ち着いてきている。
「流石サッカーのスタミナね。ほんと異常なくらい。」
「なんだよ、異常で悪かったな。」
何気ない会話が交わされる。只今16時20分、気温17度、湿度は54%。地球と殆ど変わらない環境だ。トオルが持ち前のスタミナを生かせる。少し落ち着いてきたユカが、トオルに話しかけた。
「確か、時間が無いって言ってたわね。」
「ああ、言った。」
「明日から、…魔法石の使い方を教えてあげる。」
「!!」
トオルは即座にユカのほうを振り向いた。魔法石、強大な力を持ち、所有者に何らかの補助がなされる。
「あなたはたった数日間で武術の基礎が出来た。そして持ち前のパワーとスタミナが加われば、魔法石を持つに充分及第点よ。」
「そうか、明日から魔法石を使った特訓が出来るのか…。」
トオルは口元を緩ませた。そしてトオルは何かに気付いたようだ。
「なあ、そういえばエミは何か特訓でもしてるのか?外にはあまり出てないようだし…。」
ユカはエミの部屋のほうを見た。
「エミちゃんは今、猛特訓中よ。」

『ばららー』
「ああ、また崩れた!今日まだ2回しか立てれてないのに!」
サイコロタワーが崩れた。崩れたタワーの横には、15個ずつサイコロが積まれたタワーが2つある。どうやら道具などは使っていない。指先でやっているようだ。
「やっぱりこの特訓は、相当厳しいわ。」

「ま、いいや。あいつなりに頑張ってる筈だ。続き行こうぜ、ユカ。」
「はいはい。」
ユカはフッと笑いながら、トオルの特訓の続きを始めた。

綺麗な星空だ。ワールドリンクトラベルで行ける星の中には、セントラルから肉眼で確認できるくらい近いところにある星もある。セントラルから見える星空は地球と違って様々な色に輝いている。青、紅、黄、緑…。その星たちの下だった。
『バッ』
「今日も、がっぽり頂くことが出来そうだ。」
豪勢な屋敷の中で怪しい影が一つ。どうやら物入れを物色している。
「侵入者だー!」
「チッ。」
どうやら家の者に見つかったらしい。一気にセキュリティシステムが作動した。家中の明かりが点いた。そして侵入者のもとに家主がやってきた。すると家主は尋常じゃない驚き方をした。
「お、お前は…、ファイヤー!」
「ほぅ、ま、そりゃ知ってるだろうな。俺は有名人らしいからな。」
「つ、捕まえろぉぉ!!」
「無理だぜ…!」
家主の命令を合図に、屋敷のガードマンとファイヤーが走り出した。
――。
その場は嵐が過ぎ去ったかの如くだった。ファイヤーの走った跡には筋がついていた。ガードマン4人は倒れている。家主は眼で追いきれなかったようだ。ファイヤーはもう居なかった。

夜の街を金髪のショートヘアの男が歩いている。街中には指名手配犯の顔写真が貼られている。ファイヤーの写真もある。れっきとした犯罪者だ。派手な格好を好み、人前でも堂々とする奴。今は深夜3時、この時間だから人は少ない。だが、昼間でも見かけることはあるだろう。だが捕まらない。強い。犯罪歴4年、窃盗罪133件、被害総額は数億にのぼる。

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