scene128  両腕に抱える結晶

 より適切な作業員の配置があるというのに、デーヴィスはそれを受け入れない。理解ができなかった。状況を改善すれば作業はより円滑に進み、会社にとっても作業員にとっても有益なはずだ。トオルの思考にはそれほど難解な言葉は並べられてはいないが、得意なことをやらせないのは甚だ疑問であった。
「マスマティさん、なんとかならないのか」
 マスマティは首を横に振る。
「過去に二度ほど配置転換を直訴したが、まったく聞く耳を持たれない。いつも決まって、俺の言う通りにしろ、という言葉しか返ってこない」
 マスマティはどこか諦めを含ませたような言葉を吐く。隣にいるノードも笑顔ではない。
「そんなのダメだろ。司令塔なんだからメンバーしっかり回さねーと」
 マスマティとノードはその言葉に視線を逸らせる。だがトオルは誰に言ったわけでもない。所属するメンバーのことを知り、それぞれが適した場所に配置をすることは、一つのチームの頭としてやるべきことである。
「トオルくん、きみが気にすることはないんだよ。確かに不満がないわけじゃないけど、それ以外のことについて気になるところは特にないんだ。誰だって考えはあるし、言っちゃ悪いけど不得手もある。遅刻魔の僕が言うのもなんだけどね」
 ノードは軽快に笑う。彼の持つ緩い空気が、その場の雰囲気を暖かくしていく。マスマティからも笑みがこぼれる。
「そういうことだ。要はあの人の性格だ。気にしすぎるとやっていけない」
 マスマティはトオルの肩を軽く叩くと、ノードとともに事務所へと歩いて行った。それでもまだその場から動かないトオルを、サンドスがこそこそと通り過ぎていく。話題が聞こえていたのかどこか加わりたくないような雰囲気をまとっていたので、トオルは彼には話しかけなかった。
 確かにこれまでデーヴィスにいやな感情を抱くことはなかった。話していても豪気なうえにも思いやりがあり、作業員のことを悪く言うことも全くない。週の終りには作業後に全員にねぎらいの言葉もかける。休みの日にはトオルたちと積極的に会話をしようとしてたし、それでエミとメイリには気を遣って会話がうまくいかなかったりもする。
 わずかな時間でもそれを見てきて、デーヴィスが他人を思いやって考えて行動しているのは明白だ。なのになぜこの部分だけは改善されないのだろうか。
 なんとかしたい、トオルにはそのような思いが湧いてきた。具体的になにをどうすればいいのかなんて分からないが、それでも状況を改善したいという思い。それは作業員のためでもあったし、デーヴィスのためでもあった。デーヴィスに対しては地球以外で会った誰とも違う、特別な感情が芽生えている。中学生だった数か月前の雪の日、トオルは突如として両親を失った。それから初めて、父性を感じる人間に出会ったのだ。
 厚かましいかもしれないが、それほど精神的に身近に感じた人間が、共同作業を行う仲間に不満を与えるのが、どうしても我慢ならない。考えてもデーヴィスがなぜこの状態を放って置いているのか分からないなら、無理やり考える必要はない。今は自身でやれることをやるだけと、トオルは意を決した。

「あの人は頑固だから」
 水を張って火にかけている鍋に野菜を入れながら、キワは微笑んで答える。
「そうなんですか? 話しててそうは思いませんでしたけど」
「あら、そう?」
 隣で葉野菜をぶつ切りにしながらエミが応えた。
「はい、ちゃんと話を聞いて、相槌も打ってくれるし」
「でもエミちゃん、あの人私たちと話すときって結構しどろもどろじゃない?」
 キッチンに入りきらず、ダイニングテーブルの上で野菜の皮をむくメイリが話に入る。手元の野菜は拳ほどの大きさで紅色の皮をまとっている。ピーラーであらわになる身は雪のように白い。
「そうですけど、それはあんまり関係ないんじゃ……」
「あらあら、そうね。あの人は女の子と話すのはあんまり得意じゃないわね」
 キワは声を漏らして笑う。沸騰し始めた鍋の中で踊る野菜たちをヘラでかき混ぜる。
「あの人ね、あなたたちが来て緊張してるのよ。今まで子供たちと触れ合うなんてほとんどなくてね、この団地に住む他の家族の子供たちにもあんまり近づかないの」
「あの人って子供嫌いなんですか? 見た感じそんな風に思えちゃって」
「そんなことないんじゃないかな。ただ接し方が分からないんでしょうね。ましてや女の子相手だと余計に。最近頑張ってるわ」
 キワの言葉を聞き終わるくらいに、メイリは皮むきを終える。そしてあらかじめそばに用意しておいたまな板と包丁を手にとって、皮をむき終えた白い実を切り始める。会話が途切れた少しの間に、あの、と遠慮がちにエミが口をはさむ。
「キワさんの子供はもう家を出て行ったんですか?」
 この話題に触れてはいけないのではないかと薄々感じていたが、それでも訊かずに変に気を使ったまま生活するわけにもいかず、エミは口に出した。
「子供はね、いないのよ、わたし」
 かすかに感じていた通りの答えが返ってきて、エミはすぐに尋ねたことを後悔する。あきらかに気まずそうな表情をしたエミに、キワは穏やかに語りかける。
「気にすることないのよ。ただね、あの人がこんな危険な仕事もしてるし、それに一つの場所でずっと暮らすわけでもない。あの人、一人じゃ何もできないから、作業現場が変わるたびにわたしがついてなくちゃいけないのよ」
「でもやっぱり、子供欲しいんじゃ――」
「最初は機をうかがってたけど、こんな年だしちょっと厳しいわね。でもね、もし子供を産んだとして、その子に苦労をかけたくないから」
 キワの表情に憂いはなく、かなりに本音に近いところを話してくれたのだろう。鍋の沸騰する音と、ディガップ島の岸壁に叩きつけられる波音だけが部屋に反射する。
「――だから代わりと言ってはあれだけど、里親になってるのよ」
「え、そうなんですか!?」
 不用意に覆われた薄い膜を破るように、圧迫感のない小さな緊張はキワの言葉とエミとメイリが同時にあげた声によってかき消される。
「そう。でもね、今はエミちゃんにメイリちゃん、トオルくんがうちにいて、ほんとの母親になれたみたいでとっても幸せ。――まあでも、元から一人子供がいたようなものだけどね」
 そう言ってキワは笑う。ここで言う元からいた子供というのはデーヴィスのことである。すかさずメイリが口を開く。
「デーヴィスさんが子供? 確かに私たちといるとしどろもどろになるけど、普段は黙って俺の言うことを聞けって感じの人に見えますよ」
 メイリは実を切り終えてボウルに移し、ダイニングテーブルに寄りかかりながらキワとエミの背中を見つめる。沸騰している鍋に液体の調味料を入れたキワは、メイリのほうに振り返る。
「その通りよ。あの人のやりたいことをやらせておけば、あとは私の言うことを聞くから。それに、料理も洗濯も掃除も片付けもなんにもできないから、わたしがついててあげないといけないの。ね? 子供みたいでしょ」
 キワはにっこりと笑うと、メイリも納得したようにうなずき返す。デーヴィスは、妻がいないとなにもできない夫の典型例のようだ。
「そんな人だけど、わたしをしっかり守ってくれるから、そこだけは決して子供なんかじゃないわ」
 キワの目は愛情に満ちている。そこには年下のデーヴィスをしっかりと守る母親のような微笑みと、亭主である彼の背に守られている安心感とが入り混じっていた。
「あの人が命を懸けて仕事をして、私を守っているんだから、わたしはそれを支えてあげるの。わたしが今やるべきことは、そういうこと」
 自身が全うすべきことを反芻するように、キワはその言葉を口に出す。デーヴィスがキワを支え、キワがデーヴィスを支える。この世界では夫が外に出て妻が家庭を守るという固定概念に対しての批判は、地球と違ってほとんどないように思える。ただその中においても、この夫婦は理想的なバランスが取れているのだと、エミとメイリは感じていた。

 出来上がったランチを口に運びながら、エミとメイリはこの島においての悩みをキワに打ち明けていた。トオルだけがこの先のことを感覚的に正しく捉えていたこと、自分たちがここで何をするべきかわからないこと。特に後者は二人にとっては深刻で、残りの約三週間をなにも見出せずに過ごすのは、この旅にとっても精神的にも険しくなると考えていたからだ。
 トオルだけが体力的な鍛錬を積む中で、二人は家事やちょっとした畑仕事の手伝いが主で、この時間を無為に感じることが多くなっていた。
 メイリに関しては、この島の海沿いの道路でランニングを行ったり、時間を見つけて山道を登り下りなど、トレーニングを自主的に開始している。ただ、この島の外周道路は距離が短く、採掘作業員以外が登れる山道にも限りがあり、それほどの効果を望めるものではなかった。
 エミもそんなメイリを見ながら、自分に必要なトレーニングを探してはいるが、まだ見つからずにいる。
「二人とも、何ができるだろうじゃなくて、一度なにをしたいかで考えてみたらどう?」
「なにをしたいか、ですか?」
「ええ」
 キワの助言を簡潔に述べればつまり、旅に必要なトレーニングだけにとらわれずに、やりたいことをやってみてはどうかということだった。トオルも今後の旅のことを考えてのことではあるが、結果的にデーヴィスのようなたくましい身体つきになりたいという思いが強くて現場に入っているのだから、彼女の指摘もあながち間違ってはいない。
「私は……、やっぱり思いっきり走りたいです」
 メイリは旅のこととは関係なく、それさえ出来れば心は満たされる。走ることが好きだし、オリンピックも手の届きそうな位置にある。そこまで走ることに情熱を注いできた彼女にとって、走るということ自体が、常にやりたいことなのである。
 早々にやりたいことを見つけたメイリとは対照に、エミはすぐに答えが出てこない。自分がやりたいことはなんなのか。トレーニングでもなければ、勉強でも、遊びでも、家事の手伝いでも、不安をすっぽり埋めてくれるようなものが見つからなかった。ただその片隅にある一つの光が穴を隠してくれそうな気はしていたが、“やりたいこと”という枠に入らない気がして、エミはそれを無意識的に無視していた。
 だがそれは、キワの一言によってこじ開けられた。
「エミちゃんは、トオルくんがいないことが不安なのかしら?」
「――……え?」
 その言葉に一瞬思考が停止するが、それを理解した途端、どう答えていいかわからず図星を隠すようにうっかり拍子の抜けた声を出してしまう。
「あら、やっぱりそうなのね」
 満面の笑みを浮かべてキワは胸元で軽く手を叩く。
「エミちゃんはトオルくんのことが好きなのね」
 自分でもはっきりと確信していない――確信しようとしていなかったことをキワから直接口に出され、エミは一気に紅潮する。声にならない声でそれを否定しようとするが、キワはそれを聞かず、そこへメイリも加わる。
「隠さなくてもいいのよ。自分の気持ちに素直にならなきゃ」
「うーん、なんとなくそんな感じしてたけど、やっぱエミちゃんトオルのことが好きだったんだー」
「あ、あのッ……そ、その……っ!」
 話を断ち切ろうとしても、どのような言葉でそうすればいいのかわからず、かといってキワとメイリの言葉を否定することはできなかった。キワの言葉によって無視していたその感情が目の前に現れて、それの正体がはっきりとわかってしまったからだ。わかった以上、それを違うと言うなんて自分で自分を許せなくなってしまう。
 エミは抵抗を諦める。
「は、はい……そうです――たぶん」
 最後のたぶんは、つぶやき気味に言ったのでキワとメイリには聞こえなかった。しかしそれは大した問題ではない。
「あらー、こうなったら応援しなくちゃね」
 エミがトオルに対して恋愛感情を持っていることを認めると、キワとメイリはすっかり盛り上がる。
「いいじゃない、エミちゃんとトオルくん、いい二人だと思うわよ」
「正直私は、トオルのことちょっとうるさいやつだなって思うけど。いいんじゃない? エミちゃんならきっとうまくいくと思うよ」
「ありがとうございます」
 エミはかなり照れ臭かったが、それと同時に安堵にも似た嬉しさがこみ上げてきた。今までそれを片隅に置いていたことに対する後ろめたさと、寂しさ。こんな境遇に陥ってからはより一層、そんなことを気にかけている暇はないと目を背けていた。ただそれが意識の中に入り込もうとし始めたのは、いつかジュラがその感情すれすれに言葉を投げ込んできたときだろうか。仲良いなぁ、というセリフがこの感情に活気を与えてしまったからなんだろう。
「トオルくんがいなくて不安なのね……。わかるわ。ただでさえ危険な作業をしてるもんね」
「……はい」
 つまりはそういうことだ。不慮の事故があって、トオルの命が危険に晒されるようなことはないだろうか。特に採掘場に入ってからは、トオルは“何にも頼らずに本当の俺自身の力をつけたい”と言って、魔法石をエミに預けている。今は完全に普通の十五歳男子の状態なのだ。
「トオルも無茶よね。意識的に拒否すれば、魔法石の恩恵は遮断できるのに。――エミちゃんがこんなに心配するなら無理にでも持たせようか」
「そ、そこまでしなくてもいいですよ」
 断りはしたが、気分的にはそこまでしたいとも思う。
「――エミちゃんのやりたいことは、トオルくんを待つ、ということかしら?」
 ふいにキワの口から生まれた言葉は、エミの葛藤を一瞬で紐解いてしまった。そういうことだ。自分が何かしたいというわけではなく、単純に、トオルがそばにいないことが不安なのだ。だからキワの言ったことは限りなく今の正直な気持ちに近い。
「エミちゃん、待っている側の人はね、笑顔でいなさい。そうして相手を安心させてあげること。そうすれば、きっと相手もその気持ちに応えてくれるわ」
「――――はい」
 エミは深く返事をした。そして自分の気持ちを確認する。もう迷いや疑問はなかったし、意識をはずそうとも思わなかった。トオルのことを想う気持ちは確実に存在している。

 この日も陽が沈み、茜色の空が藍色の海に飲み込まれそうな頃に作業は終わる。トオルは疲労で重くなった手足を半ば引きずりながら作業現場から事務所へと引き上げる。事務所の建物が見えてくると、その手前に作業員ではない二つの影を見つけた。
「トオル、お疲れさま」
 ある程度近づいてから、その影の主がエミとメイリだということに気付いた。
「エミ、メイリ、どうかしたのか」
 わざわざ事務所の前までやってきたのだから、それなりの理由があるのだろうとトオルは思った。しかしエミは首を横に振って、笑顔でトオルを見やる。
「お仕事お疲れさまって迎えに来たの」
 理由もなくやってきたエミに、トオルは疑問を浮かべる。しかしそれを訊き返すには、あまりにもエミの笑顔がまぶしく感じられた。いつもより清々しい気持ちにさせるエミの表情に戸惑いを感じ、湧き出た疑問を口にすることはできなかった。
「そっか――」
 質問することへの執着はなくなっていた。それよりも、エミの笑顔によって癒されたのか、これまでの仕事上がりの時よりも心の疲れが幾分軽く感じる。体も、そう感じなくもない。
「そうそう――ありがとな、魔法石預かってくれてて」
 トオルがどことなく感じた、いつもとは違うような雰囲気。それをごまかすためなのか、とっさに自分の中で間をつなごうとして出た言葉。トオル自身にとっては何気のない一言だがその言葉は本心だった。エミはそれを確かに感じ取り、体の奥深くから温かいものがこみ上げてくるのを感じた。

「あれ? きみたちは……」
 トオルたち三人が事務所に戻ろうとした矢先、暗闇から現れた人影は聞き覚えのある声を放つ。やがて姿が視認できると、それは作業服に身を包んだテジックだった。
「ベーリック社の関係者じゃなかったのかい?」
 定期船のことを教えてもらってこの島に一緒に上陸し、彼の前ではベーリック・ジュエリー社の関係者として振舞っていたトオルたちだが、この状況ではデーヴィスたちと関係がないとの弁解はできない。
「そうですか。あれは嘘だったんだね」
 事務所の前とはいえここは外灯のが少ない。暗い中で浮かんだテジックの笑顔は定期船上で見たそれと変わらなかったが、その時とは違って機械的に造られた表情のように思えた。
「まあどうでもいいです。くれぐれも怪我をしないように気を付けるんだよ」
 テジックはその笑顔のままぽんとトオルの肩を叩き、そのまま脇を通り過ぎて事務所のドアへ向かう。
「なんの用だ?」
 テジックが事務所のドアに手をかける前に、トオルは声をかける。同じ笑顔でもこれほどまでに違ってくる雰囲気と、大企業の社員がなぜ作業員十名のデーヴィス採掘の事務所に訪ねてくるか疑問を持ったからだ。
 テジックは伸ばしかけた手を止めずに事務所のドアノブを掴むと、顔だけトオルたちに向けて口を開く。
「きみたちに僕から直接言うことではありません」
 まるで同じお面を使いまわしているような、いつもとしわ一つ変わらない笑顔を見せながらも、彼の声音には行動の阻害を疎むような冷たさが紛れているように感じた。
 それを言いきるとテジックは事務所へと入っていく。中にはまだ数名の作業員と、デーヴィスがいるはずだ。トオルもまだ事務所の中へと戻る必要があったが、テジックがここから去るまで入りがたく感じ、外でただ時が過ぎるのを待っていた。
 その夜トオルが事務所の中へと入れたのは、他の作業員が帰宅し、デーヴィスの怒鳴り声が聞こえ、初めて笑顔でないテジックが彼の会社へと戻っていくのを確認した後だった。

 翌日も翌々日も、デーヴィスはいら立っていたのか一層気合いの入った仕事っぷりだった。マスマティたちの話によれば、こういうことはたまにあって数日で元に戻るとのことらしいが、トオルにはそう思えなかった。だがかくしてマスマティたちの予測は当たり勢い自体は通常運転に戻ったものの、なまじ現場に遭遇したからか、デーヴィスにはどこかわだかまりをかかかえたまま作業をこなしているように見えた。
 やがてトオル自身も体力がついたような自覚を持ち始めたころ、ディガップ島滞在一ヶ月を迎えようとしていた。それはつまり、いよいよこの島から再び真魔石収集の旅に戻るということだ。
 二八日目も通常通りに作業を終えて帰路に就く。ここ数日は天候が不安定で、にわか雨が降り出すこともあった。この日は久々に晴れ間ものぞいたが、それは夕方の僅かな時間だけだった。夜が濃くなっていくとともに暗雲が立ち込め、星々の小さな輝きを分厚い雲は急速に覆い隠していく。
 大股で先を歩くデーヴィスと、あとを追うトオル。彼らがもう少しで下山し終える頃、緊迫に耐えかねた空は爆音とともに稲妻を走らせる。それから間もないうちに大粒の雨が地面をたたき始める。水がリズムを奏でるというより、それはさながらテレビの砂嵐のノイズだ。トオルたちがデーヴィスの家に着くころには風も強さを増していく。
「やつらの好きにはさせん――」
 トオルは、デーヴィスがそうつぶやくの偶然捉えた。意味はわからないが、それがテジック訪問以来のいら立ちによるものだということは感覚的に分かった。
「あらあら、明日は荒れるのかしらね」
 出迎えたキワは外の様子を確認してから、家のドアを閉めた。

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