第4部

3月28日、東京ドーム。いよいよ2003年度のシーズンが開幕する。対戦相手は中日ドラゴンズ。巨人の先発は上原、恐らく相手は川上で来るだろう。試合開始まであと2分。セレモニーも終わり、残すは始球式だけ。始球式で立つためバッターボックスに福留が向かっている頃、絹ヶ谷はロッカーで着替えをしていた。絹ヶ谷は開幕ベンチ入りを果たしていた。全てのイベントが終わり試合が始まった。

1回表中日ドラゴンズの攻撃。巨人先発の上原は4人にヒット1本とまずまずの出だしであった。そしてその裏巨人の攻撃だった。打席には1番清水、中日ピッチャー川上。
『カーーン!』
川上の投げたカーブを清水は右翼席に運んだ。巨人では与那嶺以来、47年ぶりの開幕戦先頭打者本塁打となった。これを足がかりに点を入れたい巨人だったが、この回はこの1点だけだった。そのあと何も動きが無いまま4回表を迎えた。
《四番、センター、アレックス。》
今年来日した大型外野手。オープン戦では強打強肩を見せ付けた。そのアレックスに対して投げる上原。そしてその上原の投げた球は、アレックスにとっていいコースに来た。
『グヮキィーーーンン!!』
アレックスの打った球はぐんぐん伸びていき、バックスクリーンに突き刺さった。中日側スタンドは大騒ぎ。
《アレックス、来日初ホームラーン!》
この1本で同点に追いついた中日は波に乗ろうとした。しかしこの波に乗らせないのが上原。その後は三者凡退。しかし5回表に福留に勝ち越しを許すソロホームランを浴びた。これで巨1-2中。今度は巨人が追う側になった。しかし巨人ナインの力は簡単には抑えられない。その裏斉藤、高橋由伸の連続ヒットで1死1、2塁とすると、ペタジーニのライトフライで斉藤は3塁に進塁。元木のタイムリーで2対2の同点。更に阿部のタイムリーでもう1点を追加し、この回2点をとりあっという間に逆転した。

その頃絹ヶ谷はブルペンに来ていた。
「あ、逆転したみたいっすね。」
「おう、そうか。じゃあお前の出番は無いのか?」
やや皮肉めいて絹ヶ谷をからかったこの人は、ブルペンキャッチャーの高橋である。
「えぇ!?そんなことないっすよ。中継ぎで回ってくるかも。」
「中継ぎか?おまえ中継ぎがやりたいのか?」
「んな訳無いでしょう!俺はバリバリ先発志望ですよ。」
「はいはい分かったよ。それよりピッチング続けないのか?カメラでサボってるのを見られると出してくれないんじゃないか?」
「あ、やべっ。」
絹ヶ谷は慌てて投球を再開した。焦って投げた球は隣で投げてた前田の相手の山本ブルペンキャッチャーの方向へ。山本はナイスキャッチ。
「おいおいー!」
「あ!前田さん山本さんすんません!」

中日のラッキーセブンの攻撃、最初のバッターは谷繁。簡単に三振を取りワンアウト、このままこの回も抑えられると思った。しかし、そこへ中日打線が襲い掛かった。
『カーーン!』
『カツーン!』
『パーーン!』
《中日打線、怒濤の3連打で再逆転ー!》
《読売ジャイアンツ、選手の交代をお知らせ致します。ピッチャー上原に代わりまして、前田、背番号29。》
しかし代わった前田もタイムリーを打たれこの回5失点。思わぬ大量失点となり、またもや戦況は逆転、中7-3巨となった。開幕勝利の望みは少なくなってきた。

「うわー5点も取られてる。俺も最初の年はあんなんばっかだったなー。」
すると高橋が笑いながら、
「お前の時のほうが失点多かったけどな。」
「たっ、高橋さん!」

巨人は7回裏いいとこ無く、8回表に移った。ピッチャーはルーキーの久保に代わった。久保は谷繁に二塁打を打たれたものの後ろ二人を抑えた。しかし前の回、川上に代打で出てそのまま守備についている関川に四球を出したところで交代が告げられた。
《読売ジャイアンツ、選手の交代をお知らせ致します。ピッチャー久保に代わりまして、絹ヶ谷、背番号45。》
絹ヶ谷がマウンドに呼ばれた。絹ヶ谷は今シーズンの初登板ということで気合が入っている。そして練習投球も終わりプレイが再開した。久保の後を引き継ぎ、2死1、2塁場面だ。絹ヶ谷はクイックモーションで投げた。
『ガッ!』
バッター福留の打ち上げた打球はショートフライとなった。8回裏のジャイアンツは2死1、2塁の場面で阿部が見逃し三振で得点は出来なかった。9回表、絹ヶ谷は再びマウンドに上がった。今度は絹ヶ谷に考えがあった。それはベンチで打ち合わされていた。
「阿部さん、俺、この試合でカット試したいんすけどいいですけど。」
「カットか、確かに中日に通じるか試そうか。」
2人を抑え込み、2死になったとこで実験が始まった。得意のシュートとフォークでカウント1-2なったとこでカットのサインが出た。
(よし!)
気合を入れた絹ヶ谷は振りかぶって阿部のミット目掛け投げた。バッターはアレックス、絶好の実験相手だ。アレックスは内角の球を振りに行った。
『ククッ!』
球は鋭く、小さく、しかし大胆に曲がった。その球はアレックスのバットの先に当たりボテボテのファーストゴロとなった。
「よっしゃぁ!」
絹ヶ谷のカットボールの習得が本当に成功した瞬間だった。しかしチームは結局巨3-7中で敗戦した。しかし絹ヶ谷は大きなものを得た。

~続く~

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