第6部

絹ヶ谷は練習投球の規定投球数を投げ終えた。高木はゆっくりと右バッターボックスへと向かった。
阿部とのサイン交換が終わり、絹ヶ谷が初球を投げた。
『ズバァーン!』
「ストラーイク!」
外角にノビのあるストレートだった。その球速は151km/h。高木は最初から見逃すつもりだったが、改めて手は出なかっただろうと考えた。そして絹ヶ谷は第2球目を投げた。
『ストーン』『バシッ!』
ボール球だ。しかしそれはとてつもない落差のあるフォークボールだった。目測でも40~50cmは落ちたのではないだろうか。絹ヶ谷が3球目を投げた。投げた瞬間、ボールは外角に大きく外れると明確だった。高木は完全に見逃す体勢だった。しかし、
『ズバン!』
「ストライク!」
「え!?」
高木は思わず声を出した。前々からこの投手のことはテレビで調べていた。だが予想以上だった。もし高木が左打席に立っていたら、いや、高木だけでなく、桧山や福留、金本、ペタジーニ、パのローズ、松中、小笠原などの球界を代表する左打者が、皆うしろに体を引くのではないだろうか。そう思うほどのキレだった。カミソリシュートの平松ほどあるのでは?
(よし、ストライクだ。これで追い込んだぜ。)
絹ヶ谷は不適な笑みを浮かべた。
とにかく2-1と追い込まれてしまった高木はあとが無くなった。絹ヶ谷はその後2球連続ボールでついにフルカウントとなった。高木は最後の球は何で来るかと考えた。
(フォークは先ず無い。あれだけの落差や、ワイルドピッチになりかねない。シュートで空振りを誘ってくるかもしれんが、、これも変化が大きすぎて制球が狂う可能性がある。よし、ストレートや。)
高木が結論を出し終えたとき、絹ヶ谷は投球動作を始めた。外角の低めに速い球だ。
(来た!ストレートや!)
高木は思い切りスイングした。ボールを確実にバットに当てた。感触も確かだった。しかしその瞬間、絹ヶ谷が笑っていたのは高木には見えなかった。
『ガッ!』
鈍い音だった。芯に当てたはずのボールが、バットの先のほうに引っ掛けただけの状態だった。高木は分からなかった。どうして芯に当たってなかったのかを。
打球は二塁手仁志の前に転がっていった。仁志は簡単に球をさばきチェンジ。高木はセカンドゴロに終わった。しかし高木はどうしても納得いかなかった。何故あれが芯を外れたか。

このあと12回裏、巨人は高橋由伸のソロホームランで同点に追いついたが、後続が倒れてこのゲームは阪神8-8巨人で引き分けという結果になった。
高木の今季の成績も7打席7打数2安打、2割8分6厘となった。しかし高木は今日の打席のことをまだ気にしていた。そして高木はある行動を起こした。

~続く~

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