４月１１日、前日甲子園での中日３連戦を終え、東京にやって来た阪神ナイン。今日から東京ドームにて、読売ジャイアンツ３連戦を行う為だ。前日までの中日戦を１勝２敗と負け越している阪神は是が非でも巨人戦は勝ち越したかった。
昨日までの高木の成績は５試合出場６打席６打数２安打、３割３分３厘、打点、本塁打、共に０だった。巨人戦は特に力を入れて戦うため、選手を沢山使うと高木は踏んで、巨人戦初戦に向けて集中力を高めてきたのである。

「プレイボール！」
主審の合図と共に試合が始まった。阪神伊良部、巨人木佐貫の投げあいで始まったこの試合は、３回終了まで０－０と０が６つ並んだ。
そして４回表、四球で出塁した２番赤星がすかさず盗塁を決め、続く金本が左中間適時二塁打を打ち、１点を先制。５回表も８番藤本出塁の後、伊良部の犠打をエラーしている間に、藤本がホームインした。２点を追う巨人も６回裏、仁志の適時二塁打で１点を返した。
善戦をしていながらもベンチに座っていた高木は、何かを感じていた。この日の為に養ってきた集中力が何かを感じ取ったのである。高木にはそれは、あまり良い予感ではないということと感じられた。しかし試合はこの予感とは全く逆の方へ動いたのである。
８回表に金本がツーランホームランで２点追加し、９回にはアリアスのソロホームラン、片岡のツーランホームランで７－１と大量リードとしたのである。しかしいかんせん高木の悪い予感が消えない。不穏な表情をしている高木に、広澤が話しかけてきた。
「おいおい高木ぃ暗いでぇ。今日はもう勝ちやんか。」
広澤は明るい声で話しかけてきた。もう阪神の勝ちは決まったと悠然としている。
「俺はなんか気になるんですよ。なんやあるんちゃうかって思うてしまうんですよ。」
「なんやねん、誰か怪我でもするんかいな。」
やはり広澤は高木の話を軽く受け止めている。高木もこんなことを言っては信じられなくても仕方ないと思っていた。

９回裏、阪神の押せ押せムードの中、ウィリアムスに代わりポートが登板した。ここで高木の予感は的中してしまう。
巨人は、高橋由伸とペタジーニのヒットで走者一・二塁とすると、フルカウントから元木が２点適時二塁打を放った。しかし巨人の猛追は止まらない。阿部が代わった吉野から四球を選ぶと、続く仁志が初球を中前に打ち、元木が還り１点追加。ここで吉野は藤川に交代。しかしこの藤川も代打後藤にスリーランホームランを打たれた。
次の代打原を抑え、ようやく回を終えると気付けば１イニング６点で７－７の同点に追いつかれてしまったのである。阪神ベンチは静まり返った。広澤は周りに聞こえないよう気遣いながら高木に話しかけた。
「お前、なんでわかったん？」
「いや、なんとなくですけど。」
「凄いな、お前。」

阪神ナインはとにかく試合に勝とうと、再び気合を入れた。延長戦に突入し、本当の最終回、１２回がやってきた。
阪神の攻撃、この回からマウンドに立つ河原から、先頭打者の赤星が左中間二塁打を放った。金本四球、濱中投前犠打で一死二・三塁。代打八木は敬遠され代走秀太で一死満塁。迎える打者はアリアス。カウント１－１で左犠飛、１点勝ち越し。待望の勝ち越し点をあげた。
次の打者は矢野というところで、代打が告げられた。
《阪神タイガース、バッターの交代をお知らせします。バッター矢野に代わりまして、代打、高木、背番号２３。》
高木がコールされた。二死一・二塁の場面だ。今季７打席目だ。すると巨人ベンチも動いた。投手を交代するようだ。
《読売ジャイアンツ、ピッチャーの交代をお知らせします。ピッチャー河原に代わりまして、絹ヶ谷（きぬがや）背番号４５。》

絹ヶ谷明彦（きぬがやあきひこ）２０００年、高卒で巨人に入団。２１歳。投手。背番号４５。右投げ右打ち。その速球は１５０ｋｍ/ｈを超える。変化球も切れがよく、特にフォークとシュートは圧巻である。去年までの成績は２３勝１０敗１Ｓ、１年目は新人王を受賞した。

６年目でやっと１軍に上がってきた高木と、１年目から活躍している絹ヶ谷。全く逆の野球生活を歩んで来ている二人がこの場に対峙した。
１２回表、二死一・二塁。スコア、阪神８－７巨人。投手、リリーフ絹ヶ谷。打者、代打高木。そして絹ヶ谷はセットポジションについた。

～続く～