第7部
試合が終わり、やることを済ませた高木はあるところに向かった。その場所とは一塁側の球場出口だった。絹ヶ谷に話を聴くためだ。高木は待った。待ち続けた。そして当の絹ヶ谷が出てきた。高木は早速絹ヶ谷のほうに向かった。
「絹ヶ谷、ちょっとええか?」
「あ、高木さん。」
絹ヶ谷は驚いていた。そりゃあそうだろう。この試合、最後に出てきて、そして打ち取った相手なのだから。高木は絹ヶ谷に訊いた。
「あの最後の球は・・ストレートやと振ったけど芯が外れた。なんなんや、あれは。」
高木は真剣だった。絹ヶ谷より4cm高いとこから高木の目が絹ヶ谷に問いかける。絹ヶ谷は手の内をばらしたくなさそうだったが、高木の問いに答えることにした。
「あれは、カットファストボールなんですよ。」
「カットファストボール!?」
高木は気付いた。そう、あの時ストレートだと思いスイングした。そして芯の外側に当たったのである。
「そうです。俺は、シュート、フォークの他に、カットボールも投げれるんですよ。」
絹ヶ谷は、もうその時は、自分の球種を話すことに何のためらいも無かったのだ。
「ありがとう、絹ヶ谷。お陰ですっきりしたよ。」
「いえいえそんな、高木さんの質問に答えただけですよ。」
疑問の解けた高木はその場をあとにした。
(俺は、何故あの人に手の内をばらしたのだろう。他の人とは違う、何かいいものを感じた。なんと言えば良いだろう・・。野球に対して純粋とでも言うべきか。)
絹ヶ谷はそんなことを考えていた。そしてとりあえず絹ヶ谷もその場をあとにした。
春の夜、全力をぶつけ合った二人の軽い談話。このことがのちに、大きな転換点となることだろう。
~続く~
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