1 「序」
「そこに畑つくろうか。」
そういうと何処からかやって来た人間数人がえいさほいさと畑を作り始める。
「好きなものを育てて食料にしなさい。」
人間たちは何を植えるか考え始めた。数人で会議を始めたかと思えば、今度はなにやらもめている。意見が合わないらしい。
「いろんなものを作ればいい。畑が足りないならもっと畑を増やせばいいだろう。」
言うと、人間たちは畑をつくる者と何を育てるか考案するものにわかれて動き始めた。なかなか利口だ。
畑はみるみる作られていく。そうしてできた畑にはなにやら印がつけられていく。なるほど、何を植えるのかを表しているらしい。将来できるであろう作物に思いをはせているのか、人間たちは楽しそうだ。
「誰がどの畑を管理するのか決めよう」
人間の一人が言った。これもよい考えだと思う。
人間たちは競うようにして自分はそこの、自分はここのと指定しあっていた。
ここは農業が盛んになるに違いない。積極的な人間の姿は勤勉さも物語っている。ひとりその栄えた様子を想像しては笑みが絶えない。
「さて…」
集落の全貌を見渡した。畑がたくさんできたが、道もしっかり確保されている。土地の区切り方も非常によい。川の位置もしっかりと考慮に入れている。
ここの人間たちは頭がよいらしい。うんうん。よろしいよろしい。
珍しく何も言うことがないので時間を早送りにしてしまおう。きっとすぐに作物が育っていくだろう。そしてここは農業大国として栄えていくに違いない。
神様はなにも躊躇せず早送りを実行した。
作物ができるのに十分な時間を早送りにした。
だが様子がおかしい。畑には作物が実っているはずなのになにもないではないか。
いや、畑どころか人の姿がない。集落は殺風景でまるで別世界だ。道端に倒れている人間すらいる。
「何があった。作物はどうした。」
なにやら前よりもやせ細っている人間をみつけ聞くと、人間はこう答えた。
「神様、種がありません」
私は時間を巻き戻すことにした。
序終わり
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