scene1  不良少年

「ラァァァーー!!」
「ガハッ!」
『ドサッ』
「ハァ、ハァ、俺の勝ち。」
息を切らしながらその少年はそう言った。

ここは日本の東京都の真ん中辺り。ここに桐島(きりしま)東中学校がある。どの都道府県にもあるような普通の公立高校だ。そこの3年生6クラスあるうちの3年2組。そこに一人の不良少年が居た。名前は宮崎徹(みやざきとおる)。黒くて肩甲骨(けんこうこつ)まである長い髪。目つきはしっかりしている。態度や身なりを整えれば、充分モテモテ君の仲間入りが出来る。だがいかんせん、性格がちょっと悪い。さっき喧嘩をしていたのも徹だ。そして勝った。背は170も無く、決して有利な体格とは言えないが、そこそこ強い。学校でも喧嘩の強い奴の一人として名が挙げられる。

「ただいま。」
「おかえりぃ。私今からバイト行くから政也たちのことよろしくね。」
「OK、分かった。」
徹が帰って来ると入れ替わりに家を出て行った女性は、高校3年生の徹の姉である。この家庭は数ヶ月前に両親を事故で亡くした。その為姉が一人働いて居る。しかし幸い、両親の遺産は多く、親戚の手伝いもあってずっと同じ家に住んでいる。
「あ、兄ちゃんお帰り。」
「お帰り。」
「おかえりぃ。」
徹には姉のほかに3人の弟も居る。小6の政也、小2の翔太、小1の健太。この家族は5人姉弟だ。実を言うと徹は、喧嘩は好きだが、面倒見のいい奴だ。
「おい政也、皿出してくれないか?」
「分かった。」
徹は今料理をしている。もともとちょっと料理に興味があったが、最初はかじる程度だった。だが両親の死後、姉がバイトに通い始め、専ら弟たちの面倒を見る役目が徹に回ってきたのである。これを機会に食事の仕度をするようになり、腕がめきめきと上達していったのである。もう食堂なら出店してもいいくらいだった。

「宿題あったな…。ま、いいか…。寝よ。」
徹はさほど頭は良くない。


「ここは…何処?」
一人の女性が立っていた。その森の中には一筋の道が続いていた。その道には草などは生えておらず、人工的にならされた道らしい。しかしやはり砂利道。だが、道の上は木の枝などの邪魔は無く、日光がしっかりと入ってきている。森特有の不気味さなどは一切感じなかった。女は立っていても始まらないと思い、歩き出した。途中、人とすれ違った。どうやら普通に使われている道らしい。女は一安心した。しかしここが何処だかさっぱり分からない。家出し、迷い込んだ森の中にあった小さな綺麗な石。軽く光ったと思ったら自分は知らないとこに立っていた。しばらく歩くと見たことも無い文字。地球上に存在する文字ではない。
(本当にここは…どこなの!?)
少し大人びた、茶髪の女性だった。


翌日の学校だった。
「おい宮崎。」
「…蝦夷(えぞ)か…。」
放課後、徹は裏庭に呼び出された。呼び出した少年。肩まである金髪に、つりあがり細い目の恐ろしい形相をした少年だ。
「宮崎、お前には一度、借りがあったんだっけなぁ…。」
「馬鹿言ってんじゃ無ぇよ。あれは俺の分の借りを返しただけだろ?」
「それが納得無ぇんだよ。その一敗がなぁ。」
徹は恐れもせずに、180を超える大男の顔を睨みつけている。徹の借りとは、昔転校し、最近帰って来た徹の旧友がこの少年にいじめられたことだ。蝦夷とは自他共に認める桐島東中学校の最強の奴である。誰も対抗しなかったが、徹はこの間、いじめの件で蝦夷を負かしたのだ。
「ということで、借りを返させてもらうぜ。」
「…残念だがそれは出来ないな。」
徹はあっさりと返した。
「怖気づいたのか…?」
「馬鹿言うな。その気になればお前なんかもう一度倒してやる。」
「ほぅ。じゃあ今やってみろよ。」
徹は蝦夷の挑発には乗らず、再び話し始めた。
「俺はお前と違って一応ちゃんとした高校の入学を目指してるからな。あまり目立った騒ぎは起こせないのさ。」
「…けっ。何を言い出すと思ったら…。」
「じゃ、俺はこれで。」
「待てよ!」
徹は蝦夷を気にせず校舎内へ入っていった。

「徹!」
「分かった!ごめんって!」
「全く、また先生に睨まれたらどうする気よ!」
「だから謝ってんじゃん、絵美。」
何故か徹に強い少女、福井絵美だ。と言っても幼馴染なのだから少々の弱みを握っているのかもしれない。
「ったく、私まで疲れるんだからその喧嘩癖、直してよ。」
「今日は喧嘩して無ぇーよ。」
絵美は長い黒髪を左手でさらっと撫でた。
「あ、そうそう、さっき石川君が徹のこと探してたわよ。」
「あ、いけねぇ!忘れてた。サンキューな、絵美。」
徹は絵美の言葉を聞き一言礼を言うと、駆け足でグラウンドに向かった。

「宮崎!宮崎は今日も休みか!?」
「あ、監督!今日は参加します。」
「おぉ、やっと来たか宮崎。」
グラウンドの真ん中で点呼を取っていたのはサッカー部の顧問だ。宮崎はこのサッカー部に所属している。すると隣に居た徹と同じくらいの背の少年が話しかけてきた。
「宮崎、お前どこ行ってたんだ?」
「あ、石川済まねぇ。探したんだってな、絵美から聞いた。」
石川春日、徹とは小学校の頃から一緒で、大親友だ。サッカー部では徹と同じフォワードのポジションで、ツートップを張っている。
「お前なぁ、背番号10の自覚無いのか?いくら練習がだるいっからって。」
「いいじゃんか、試合にはちゃんと出てるし。」
徹はサッカーの腕前はぴか一で、高校サッカーの司令塔も出来るくらいの実力を持っていた。実際、徹の出場した試合は37戦負け無しだ。しかし飽き性で、練習には殆ど参加しない。でも何故か技術は衰えるどころか、進歩しているのだから驚きである。それも100m12秒7という身体能力のお陰かもしれない。

「お疲れー。」
サッカー部の練習が終わった。珍しく最後まで徹が居た。何故なら、今日は3年生最後の練習日だからだ。もうすぐ夏休みが始まる。それと同時にサッカー大会の地区予選が始まる。この大会は勝ち抜き戦だ。勿論負けた時点でクラブは引退だ。初戦は7月24日。あと一週間である。更に明日は終業式だ。


「ふぅ。地球じゃないってことは確かだけど、人間もいっぱい居るし、過ごし易いし。ま、気が向いたら帰り方を探そう。」
一軒家の1階のリビングで、情報番組を見ながらコーヒーを飲む茶髪の女性。この世界が何か理解したらしい。


「ただいまぁ、姉貴はもうバイト?」
「あ、兄ちゃん。なんか帰ってきてないんだ…。」
「え?」
その時、宮崎家のリビングの電話がコール音を奏でた。

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