第1部
『ズバァァーーン!』
《出ました!今日9つ目の三振!ラストバッターを三振にとれば二桁です!》
『ズバァァーーン!』
『ストライーーーーク!!アウトォッ!!』
《三振ー!最後の打者を三振に仕留め二桁奪三振を達成!今シーズン最終戦で自己最多の13勝目を挙げました。》
今ここに、去年の新人王が居る。2000年シーズン後のドラフトで巨人、広島、阪神、ダイエー、日本ハムの1位重複指名。抽選で巨人と交渉、入団。1年目は10勝(4敗)を挙げ新人王を獲得。そして今季もたった今13勝目(6敗)を挙げた。
この年はこれで全ての試合を消化したため、この投手は2年で通算23勝(10敗)を挙げたことになる。この年は最優秀防御率が決まった。
絹ヶ谷明彦(きぬがやあきひこ)2000年、高卒で巨人に入団。21歳。投手。背番号45。右投げ右打ち。その速球は150km/hを超える。得意変化球はシュートとフォーク。これで三振の山も築いている。
今年の巨人は見事優勝を決め、日本シリーズを戦うだけになった。
「あー疲れた。」
絹ヶ谷はそう言いベンチの奥へと下がった。
《さあ、今年の日本シリーズは読売ジャイアンツ対西武ライオンズです。》
2002年度の日本シリーズが開催された。第1戦の先発は巨人は上原、西武は松坂と両方ともエースをぶつけてきた。絹ヶ谷はベンチ入りしていた。
初戦は上原、松坂が投げ合い1-0で巨人が先勝した。第2戦は巨人打線大爆発で9-4で勝った。この2試合で2勝0敗とした巨人は、敵地西武ドームを後にし本拠地東京ドームへと移動した。
東京ドームでの日本シリーズ第3戦。先発は絹ヶ谷だ。絹ヶ谷はあれよあれよとバットをかわし無安打で6回を終了した。
「おう、絹ヶ谷、完全試合が続いてるぜ。」
マウンドからベンチに戻る途中、絹ヶ谷に声をかけてきたのは清水だった。
「そんな偶然ですよ偶然。」
「パ・リーグの覇者西武を相手に偶然でここまでこれないさ。」
「そ、そうですね。」
7回表の西武の攻撃は4番カブレラからだった。しかしここで絹ヶ谷は唯一の失投を許した。
『カァァーーーン!!』
球は東京ドームの看板に直撃した。
《絹ヶ谷、この試合初めて許したヒットがホームラン。完全試合と完封を同時に逃がしました。見たかったですねー。日本シリーズでの完全試合を。》
結局この試合は3-1で巨人が勝利した。そして巨人は次の試合も勝利し、4連勝で日本一を決めた。
時は早く流れ2003年度春季キャンプ。今シーズンに向け、ジャイアンツナインは順調な調整を続けていた。しかし晴れにも関わらず室内練習場で投げ込みをしている一人の若い投手が居た。絹ヶ谷だ。
『ヒュッ!』
『スパーン!』
「いい球が来てるぞ。」
「本当ですか、小田さん。」
絹ヶ谷の球を受けているのは小田だった。
「なあ絹ヶ谷、次はあの球投げてみろ。」
「はい。」
絹ヶ谷は小田の言葉にうなずき、その球を投げた。
『ヒュッ!クッ!』
『スパーン!』
「どうでしたか。」
「はいだめぇ~。」
「え~。」
絹ヶ谷は小田のこっけいなその返答に少し笑いながら応えた。
「そうか。駄目か。結構いい感じで指が引っかかったんだけど。」
絹ヶ谷は新変化球習得に向け、日々練習している。秋季キャンプから春季キャンプの今まで。しかしまだどんな変化球なのかさえ見えてこない。若干軌道は変わっているがまだ変化といえるものではなかった。
「さ、今日の練習時間は終わり。また明日、付き合ってやるよ。」
「はい、ありがとうございます。」
21歳の若者は変化球を二球種投げられる。それに三つ目が加われば凄い投手になるだろう。しかし、その日本球界に入って間もない球種を絹ヶ谷が習得したとき、それは絹ヶ谷の野球人生を決する日であろう。
~続く~
>>>